俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました

一章

一章

　想定外の見合いより、話は半年ほど前にさかのぼる。
　四月初頭。今年は春の訪れが早く、街路樹の桜の花はもうまだらになっている。ふわりと吹く風に乗って、薄紅の花びらが日菜子の頭上を舞う。

「うん。門出にふさわしい、いい朝だわ」

　満開の桜に見送ってもらえたら、もっと気分はよかっただろうけど……些細なことは気にならないくらいにいい気分だった。

（今日から念願の新生活！　明るい未来が待っていますように）

　そう祈りながら、駅へと足を速めた。

　今日は転職初日なのだ。新しい職場であるルーブデザインは、セレブな豪邸専門の設計事務所だ。
　日菜子はこの春で社会人三年目。新卒で入社したのは、父の経営する氷堂地所のグループ企業でホテルや商業施設などの開発を手掛ける企業だった。