俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
 そう思った瞬間、日菜子の顔の前で善がボールをキャッチした。

「大丈夫か?」

 青い顔で彼が日菜子を見る。

「は、はい。ちょっとびっくりしましたけど……」
「悪い。内野席は時々ファールボールが飛んでくるから気をつけろと言うのを忘れてた」
「そういうものなんですね。あの、善さんの手は大丈夫ですか?」

(野球って普通はグローブをつけるものよね? 経験者とはいっても、素手じゃ痛くなかったのかな)

 彼は笑って首を横に振る。

「俺の手は別にいいよ。日菜子が怪我しなくてよかった」
「見せてくださいっ」

 日菜子は彼の手からボールを奪って、手のひらを確認した。ほんのり赤くなっている気がする。

「絶対、痛かったですよね……。ごめんなさい、私がぼんやりしてたから」
「いいって」

 彼はいたずらっぽくほほ笑んでみせる。

「むしろ、少しはかっこつけられる場面があってラッキーだった」

 その笑顔にどうしようもないほど胸が締めつけられた。

「私を守ってくれた善さん、すごくかっこよかったです。でも、善さんはいつも素敵です。一緒にいるとドキドキして――」
「ストップ」

 彼の大きな手が日菜子の口を塞ぐ。照れくさそうな、弱ったような顔で彼はささやく。

「その反応は予想外すぎ」

 熱っぽい眼差しで彼は日菜子を見やる。

「日菜子といると、どうも調子が狂うな。溺れさせてやろうと思ってたのに……いつの間にか俺のほうが深みにはまってる」
「善さん?」

 彼の手がくすぐるように頬をなでる。

(熱いのは善さんの手? それとも私?)
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