俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
 戸籍上は夫婦でも思いつきのような口約束で始まった自分たちより、善と南の間には深い絆があるように思えて……湧きあがる嫉妬を抑えることができない。

「日菜子ちゃん? 大丈夫?」

 どうしても彼女の顔を直視できない。

(大丈夫?って、南さんには聞かれたくない)

「……大丈夫です」
「でも、顔色悪いよ。具合悪いなら無理せず――」
「放っておいてください! 南さんには関係ないですから」

 南はひどく傷ついた顔をする。そのことが日菜子をますます混乱させる。

(南さんはどういうつもりで私に優しくするの? わからない)

 彼女を見ていると不安になる。思い合うふたりを邪魔している悪役は自分のほうなのでは……という疑念が浮かんできて打ち消すことができない。

(善さんはどうして契約結婚なんて持ちかけたの? 甘く抱き締めたりしないで……)

 善のことも、南のことも、今さら妊娠の事実がたまらなく不安になっている自分のことも嫌いになりそうだ。

「ごめんなさい。ちょっとお手洗いに行ってきます」

 南に断りを入れて、日菜子は席を立った。フロアを出てトイレに向かおうとしたところで声をかけられた。

「日菜子ちゃん!」

 振り返ると中野が自分を追いかけてきていた。

「中野さん。なにか?」
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