俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
 中野の席はすぐ近くだ。南とのやり取りを聞いていたのかもしれない。彼は気遣わしげな声で言う。

「具合悪いなら無理しなくていいからね。日菜子ちゃんはがんばりすぎるところがあるから……たまには休んでもいい。そのためのチームだしさ」

 彼の思いやりはうれしかったけれど、つわりがきついのならともかく南の顔を見るのが苦しいという理由で仕事を休む気にはなれなかった。

「たいしたことないので、本当に大丈夫です」
「そう? でも、なにかあったらすぐに相談してね」

 彼は南とのことを詮索する気はないようだ。そのまま踵を返そうとした中野の背中に日菜子は声をかける。

「中野さん。ちょっと聞きたいことがあるんですが……」

 人目につかない非常階段に移動してから、日菜子は彼に善と南の関係を聞いてみた。

「昔、付き合っていたとかそういうことがあるんでしょうか」

 中野は困ったような顔で肩をすくめる。

「あのふたりの関係ね……俺の口からはちょっと言えないかな」

 覚悟はしていたけれど、想像以上にショックは大きい。日菜子は礼も言えずにその場に立ち尽くす。中野は軽く笑って続けた。

「社長に自分で聞いてみたらいいよ。ふたりは夫婦なんだからさ」

 妙な含みがあるように感じたのは、思いすごしだろうか。
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