俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
問題は日菜子が本気で善を好きになってしまったことだけなのだ。
(好きになったりしなければ、よかったんだ。そしたら、大好きな南さんにあんな態度を取ってしまうこともなかった)
「そうよ! 善さんへの恋心なんてなかったことに――」
ふいに胸に迫ってくるものがあって、日菜子は言葉を止める。
頼りがいのある優しい笑顔、自分を見つめる情熱的な瞳、彼との思い出が次々に浮かんできて……日菜子はこらえきれずに嗚咽を漏らす。
(なかったことには……できないよ。私は善さんが……)
「日菜子?」
弾かれたように顔をあげる。自分を呼び捨てにする男性は父以外にはひとりだけ……。
「ぜ、善……え?」
そこにいたのは善ではなかった。自分を『日菜子』と呼ぶ男性がもうひとりいたことを日菜子は久しぶりに思い出す。
「ゆ、悠馬さん!」
日菜子は目を丸くして彼を見つめる。以前よりずいぶんとくたびれた様子に見える。スーツ姿だが、シャツもジャケットもヨレヨレだった。
「びっくりしました。よく私に気がつきましたね」
悠馬に再会したらもっと動揺するかと思っていた。けれど実際には戸惑いも怒りもない。古い知り合いと偶然会った。それ以上でも以下でもなかった。
「ひとり? なにかあったの?」
さきほど泣きそうになっていたのを見られていたらしい。思えば、彼はそういうことによく気がつく男だった。
(好きになったりしなければ、よかったんだ。そしたら、大好きな南さんにあんな態度を取ってしまうこともなかった)
「そうよ! 善さんへの恋心なんてなかったことに――」
ふいに胸に迫ってくるものがあって、日菜子は言葉を止める。
頼りがいのある優しい笑顔、自分を見つめる情熱的な瞳、彼との思い出が次々に浮かんできて……日菜子はこらえきれずに嗚咽を漏らす。
(なかったことには……できないよ。私は善さんが……)
「日菜子?」
弾かれたように顔をあげる。自分を呼び捨てにする男性は父以外にはひとりだけ……。
「ぜ、善……え?」
そこにいたのは善ではなかった。自分を『日菜子』と呼ぶ男性がもうひとりいたことを日菜子は久しぶりに思い出す。
「ゆ、悠馬さん!」
日菜子は目を丸くして彼を見つめる。以前よりずいぶんとくたびれた様子に見える。スーツ姿だが、シャツもジャケットもヨレヨレだった。
「びっくりしました。よく私に気がつきましたね」
悠馬に再会したらもっと動揺するかと思っていた。けれど実際には戸惑いも怒りもない。古い知り合いと偶然会った。それ以上でも以下でもなかった。
「ひとり? なにかあったの?」
さきほど泣きそうになっていたのを見られていたらしい。思えば、彼はそういうことによく気がつく男だった。