合意的不倫関係のススメ
瀬良さんは私に「二條がやらかした」という抽象的な表現しかしなかった。
私も特に詳しく知りたいとも思わなかったけれど、主任や他の女性社員の会話から何となくの経緯を察する。
私の勤めるこの百貨店には、二種類の外商カードが存在する。もちろん、外商付きという時点で私には考えられない生活をしているのだろうけれど、通常の外商カードの更に上、もしも売り場にてこのカードを提示されたら一気に緊張感が走る。
意外と身なりでは判断できず、飾り立てていないごく普通の方がこのカードを持っていたりするから、気が抜けない。
私は差別する理由がないのでしないし、本当の意味での富裕層に属しているお客様は、些細なことでは気分を害さない。きっと全てにおいて余裕があるのだろう。
二條さんが問題を起こしたのは、このワンランク上の外商顧客。それは商品間違いなどといったことではなく、どうやらお客様のご家族との揉め事らしい。
この問題が起こったのが今日。そしてタイミングの悪いことに先日、私や他の女子社員に詰め寄っていたあの外商事務員が、二條さんに弄ばれたなどといって散々喚き散らして突然辞職したのだと。
こういう場合の釈明の仕方というものを私は知らないし、そもそも当人同士は成人した独身の男女。周囲がどうこういう話ではないようにも思うが、問題は彼女が職場放棄した挙句に突然退職したこと。
それにより他の事務員や外商員に皺寄せがいくこととなり、結果的に今そこにいない彼女よりも二條さんを責めたくなってしまう状況が出来上がった。
そこへ来ての、今回の件。先方はかなり大手の会社経営者で、系列あれこれ含めると相当な額をウチの百貨店に落としている。
詳細は知らないが、どうやらかなり立腹しているようだ。二條さん含め、部長や次長だけではなく専務が謝罪に出てくるのでは、という事態にまで発展していると。
まあ私の情報源はあくまで噂程度、どこまでが真実かは分からない。
やれ何階の部長が不倫した、やれあの売場の社員が風俗勤務していただのと、こんなスキャンダルはしょっちゅうだ。
「三笹さんって二條さんと同期でしたよね?何か知りません?素行の悪さとか、従業員手当たり次第にとか」
「さあ、私そういう噂に疎いから」
人気者というのも大変だ。少し綻びを見つけようものならば、すぐにそこを引き裂こうと指を突っ込む。
針と糸で繕ってやろうとする者は誰もいないらしい。
(私も、人のことはいえないけど)
見て見ぬフリも同罪だと、何かの記事で読んだことがある。実際私には関係のないことだし、首を突っ込むほどの仲でもない。
そう思いながらもふと、この間接客した二條さんの妹だという女性の顔を頭に浮かべる。そして、社食で家族の話をしていた彼の表情も。
何が真実なのかは、当人にしか分からない。
それは私が、身を以て経験したこと。
二條さんの心の内も、知っているのは彼自身だけだ。
私も特に詳しく知りたいとも思わなかったけれど、主任や他の女性社員の会話から何となくの経緯を察する。
私の勤めるこの百貨店には、二種類の外商カードが存在する。もちろん、外商付きという時点で私には考えられない生活をしているのだろうけれど、通常の外商カードの更に上、もしも売り場にてこのカードを提示されたら一気に緊張感が走る。
意外と身なりでは判断できず、飾り立てていないごく普通の方がこのカードを持っていたりするから、気が抜けない。
私は差別する理由がないのでしないし、本当の意味での富裕層に属しているお客様は、些細なことでは気分を害さない。きっと全てにおいて余裕があるのだろう。
二條さんが問題を起こしたのは、このワンランク上の外商顧客。それは商品間違いなどといったことではなく、どうやらお客様のご家族との揉め事らしい。
この問題が起こったのが今日。そしてタイミングの悪いことに先日、私や他の女子社員に詰め寄っていたあの外商事務員が、二條さんに弄ばれたなどといって散々喚き散らして突然辞職したのだと。
こういう場合の釈明の仕方というものを私は知らないし、そもそも当人同士は成人した独身の男女。周囲がどうこういう話ではないようにも思うが、問題は彼女が職場放棄した挙句に突然退職したこと。
それにより他の事務員や外商員に皺寄せがいくこととなり、結果的に今そこにいない彼女よりも二條さんを責めたくなってしまう状況が出来上がった。
そこへ来ての、今回の件。先方はかなり大手の会社経営者で、系列あれこれ含めると相当な額をウチの百貨店に落としている。
詳細は知らないが、どうやらかなり立腹しているようだ。二條さん含め、部長や次長だけではなく専務が謝罪に出てくるのでは、という事態にまで発展していると。
まあ私の情報源はあくまで噂程度、どこまでが真実かは分からない。
やれ何階の部長が不倫した、やれあの売場の社員が風俗勤務していただのと、こんなスキャンダルはしょっちゅうだ。
「三笹さんって二條さんと同期でしたよね?何か知りません?素行の悪さとか、従業員手当たり次第にとか」
「さあ、私そういう噂に疎いから」
人気者というのも大変だ。少し綻びを見つけようものならば、すぐにそこを引き裂こうと指を突っ込む。
針と糸で繕ってやろうとする者は誰もいないらしい。
(私も、人のことはいえないけど)
見て見ぬフリも同罪だと、何かの記事で読んだことがある。実際私には関係のないことだし、首を突っ込むほどの仲でもない。
そう思いながらもふと、この間接客した二條さんの妹だという女性の顔を頭に浮かべる。そして、社食で家族の話をしていた彼の表情も。
何が真実なのかは、当人にしか分からない。
それは私が、身を以て経験したこと。
二條さんの心の内も、知っているのは彼自身だけだ。