合意的不倫関係のススメ
「おいで茜」
ベッドの上で、蒼が私に向かって手を伸ばす。本音を言えば今はそういう気分になれなかったが、拒否もしたくない。
素直に側に寄ると、彼は後ろから優しく私を抱き締めた。
「蒼…?」
「今日、何かあった?」
「……」
どうして隠し通せると思ったのだろう。今までのことは全て気付かない《《フリ》》をしてくれていただけ。
私達は、とてもよく似ている。
愛する人の変化に、気が付かないわけがない。
「あのね、実は…」
私は今日会社で起こった出来事を全て蒼に打ち明けた。変に誤魔化したりせず、今の心情も正直に吐露する。蒼は私を抱き締めたまま、静かに耳を傾けてくれた。
「そっか。そんなことがあったんだ」
「蒼、私…」
「大丈夫、もう誤解したりしない」
その声色は穏やかだった。背中越しに伝わってくる落ち着いた彼の鼓動が、私の心を滑らかにする。
「茜は優しいから」
「私は優しくない、そんな風に言うのは蒼だけだよ」
「周りは茜をよく知らないから」
大きな掌は、温かい。頬に当てられたそれに、私は猫のように擦り寄った。
「蒼…話を聞いてくれてありがとう」
「茜だってそうしてくれる」
私達は少しずつ、けれど着実に変わっている。
不安に捉われ、恐怖に蝕まれ、真っ暗な闇の中で必死にもがいていた。目の前に差し出されている手に、気が付いていなかった。
今は違う。不安も恐怖も猜疑心も何もかも、幸も不幸も、二人で共有する。
自分も相手も、大切にしたい。
「外商は男も多いんだろ?ある意味女の世界よりえげつないからなぁ」
「そうなの?男の人はさっぱりしてるのかと思ってた」
「まさか。上に行けば行く程陰湿だし、足の引っ張り合いならまだ可愛い方だよ。相手がどうすれば失脚するか、そればっかり考えてるようなヤツも珍しくない」
「そうなんだ…」
もちろん、そんな人ばかりではないだろう。けれど百貨店という組織の裏の顔は、経験した者にしか分からない。花形である外商部がどれだけ欲と嫉妬に塗れた場所か、想像するだけで背筋が震えた。
「二條君は若くして有望株だろうし、嫉妬の対象だったのは間違いないね」
「もし蒼だったら、どうする?」
「俺?ううん…とりあえず話を聞く、そのくらいしかできそうにないけど」
蒼は真剣な表情で、私と一緒に考えてくれる。
「彼がもし茜に相談してくるようなことがあれば、ただ聞いてあげたらいいんじゃないかな。それだけで充分救われると思うよ」
「そうだね、うん。次機会があればそうしてみる」
思いきって打ち明けてよかったと、そう思う。
「でも、できれば二人きりにはならないで」
「分かってる、絶対にしない」
「二條君、早く立ち直れるといいね」
にこりと優しく微笑む蒼を見て、私は堪らなくなり正面から抱きつく。好きだという感情が溢れ出して、止まらなくなる。
「蒼好き、大好き」
「はは、苦しいって」
私達は笑い合いながら、視線が絡んだ瞬間吸い込まれるように唇を重ねる。
私は彼の耳元に擦り寄り、小さく呟いた。
「今、凄く蒼に触ってほしい…」
「茜…」
ごくりと唾を飲む音が聞こえる。私達は再び視線を絡め、先程よりも深く唇を重ね合わせた。
ベッドの上で、蒼が私に向かって手を伸ばす。本音を言えば今はそういう気分になれなかったが、拒否もしたくない。
素直に側に寄ると、彼は後ろから優しく私を抱き締めた。
「蒼…?」
「今日、何かあった?」
「……」
どうして隠し通せると思ったのだろう。今までのことは全て気付かない《《フリ》》をしてくれていただけ。
私達は、とてもよく似ている。
愛する人の変化に、気が付かないわけがない。
「あのね、実は…」
私は今日会社で起こった出来事を全て蒼に打ち明けた。変に誤魔化したりせず、今の心情も正直に吐露する。蒼は私を抱き締めたまま、静かに耳を傾けてくれた。
「そっか。そんなことがあったんだ」
「蒼、私…」
「大丈夫、もう誤解したりしない」
その声色は穏やかだった。背中越しに伝わってくる落ち着いた彼の鼓動が、私の心を滑らかにする。
「茜は優しいから」
「私は優しくない、そんな風に言うのは蒼だけだよ」
「周りは茜をよく知らないから」
大きな掌は、温かい。頬に当てられたそれに、私は猫のように擦り寄った。
「蒼…話を聞いてくれてありがとう」
「茜だってそうしてくれる」
私達は少しずつ、けれど着実に変わっている。
不安に捉われ、恐怖に蝕まれ、真っ暗な闇の中で必死にもがいていた。目の前に差し出されている手に、気が付いていなかった。
今は違う。不安も恐怖も猜疑心も何もかも、幸も不幸も、二人で共有する。
自分も相手も、大切にしたい。
「外商は男も多いんだろ?ある意味女の世界よりえげつないからなぁ」
「そうなの?男の人はさっぱりしてるのかと思ってた」
「まさか。上に行けば行く程陰湿だし、足の引っ張り合いならまだ可愛い方だよ。相手がどうすれば失脚するか、そればっかり考えてるようなヤツも珍しくない」
「そうなんだ…」
もちろん、そんな人ばかりではないだろう。けれど百貨店という組織の裏の顔は、経験した者にしか分からない。花形である外商部がどれだけ欲と嫉妬に塗れた場所か、想像するだけで背筋が震えた。
「二條君は若くして有望株だろうし、嫉妬の対象だったのは間違いないね」
「もし蒼だったら、どうする?」
「俺?ううん…とりあえず話を聞く、そのくらいしかできそうにないけど」
蒼は真剣な表情で、私と一緒に考えてくれる。
「彼がもし茜に相談してくるようなことがあれば、ただ聞いてあげたらいいんじゃないかな。それだけで充分救われると思うよ」
「そうだね、うん。次機会があればそうしてみる」
思いきって打ち明けてよかったと、そう思う。
「でも、できれば二人きりにはならないで」
「分かってる、絶対にしない」
「二條君、早く立ち直れるといいね」
にこりと優しく微笑む蒼を見て、私は堪らなくなり正面から抱きつく。好きだという感情が溢れ出して、止まらなくなる。
「蒼好き、大好き」
「はは、苦しいって」
私達は笑い合いながら、視線が絡んだ瞬間吸い込まれるように唇を重ねる。
私は彼の耳元に擦り寄り、小さく呟いた。
「今、凄く蒼に触ってほしい…」
「茜…」
ごくりと唾を飲む音が聞こえる。私達は再び視線を絡め、先程よりも深く唇を重ね合わせた。