合意的不倫関係のススメ
ーー
十日もすれば二條さんの出来事もすっかり風化し、皆次の獲物を求め貪欲に目を光らせている。どうしてそんなに他人のことが気になるのか、自身で精いっぱいの私には理解できない。
私は私の業務をこなすだけだと、来たる繁忙期に向け前年度の売上等の資料を確認していた時。
鋭い形相をした突然男性が売場に乗り込んできたと思った瞬間、花井さんに掴みかかった。
「お前俺を騙したんだろう!渡した金を今すぐに返せ!」
「は、はぁ!?あなた何なんですか!」
「惚けるな尻軽!」
常人の目付きではないことはすぐに分かった。瞳孔は開き血管も浮き出ていて、分別のつく筈の大人が公衆の面前で人目も憚らず喚き散らしている。
「部長、次長、警備部に連絡を」
「わ、分かったわ」
各所への連絡を主任に任せ、私は2人に近付く。それに気付いた花井さんは、助けを求めるようにこちらに手を伸ばした。
「お客様、どうかされましたでしょうか」
「どうもこうもねぇよこの女が…っ」
「落ち着いて話し合いましょう」
「関係ないやつは引っ込んでろ!」
首を突っ込まれたくないのならば、こんな場所で非常識なことをしないでほしい。すぐに警備員が到着するだろう、私は時間を稼ぐだけでいい。
「三笹さん、私こんな男知りません!」
「なんだと!こっちはなぁ!」
「近寄らないでよ!」
「花井さん止めて」
幾ら恐怖でパニックになっているからと言って、どうして煽るような発言をするのか。
案の定男は更に激昂し、彼女の髪を掴もうと私を押しのける。
「邪魔だどけっ!」
「やめてください、暴力はあなたの為になりません」
「煩いんだよブス!」
思いきり突き飛ばされ、ショーケースに背中を強打する。どれだけ抵抗しても、やはり男の力には敵わない。
「キャーッ!」
「三笹さん!」
倒れ込んだ私の所に主任が駆け寄る。かなり強い衝撃に喉が締まり、上手く言葉が出てこない。
「お前何をしてる!」
「うちの従業員に手を出したな!」
数名の警備員と、部長次長その他食品課の男性社員達が男を取り囲む。霞む視界の先に、ちらりと刺又のようなものが写った。
「離せっ、俺は梨奈に用があるんだよ!梨奈どこだ、絶対許さないからなぁっ!!」
どうやら男は凶器などは所持していなかったようだ。警備員に拘束され、バックヤードへと姿を消していく。その断末魔が完全に聞こえなくなるまで、随分と時間がかかった。
「お騒がせして大変申し訳ございませんでした」
部長達が事後処理を行なっている。私は主任や売場の女子社員に支えられ、医務室へと運ばれることとなった。
(最悪、ホントに痛い…っ)
ガラスケースの角に思いきりぶつかったせいで、背中が刺されたように痛む。息をすることすら苦しい中で視線だけ動かしたけれど、花井さんの姿は見当たらなかった。
十日もすれば二條さんの出来事もすっかり風化し、皆次の獲物を求め貪欲に目を光らせている。どうしてそんなに他人のことが気になるのか、自身で精いっぱいの私には理解できない。
私は私の業務をこなすだけだと、来たる繁忙期に向け前年度の売上等の資料を確認していた時。
鋭い形相をした突然男性が売場に乗り込んできたと思った瞬間、花井さんに掴みかかった。
「お前俺を騙したんだろう!渡した金を今すぐに返せ!」
「は、はぁ!?あなた何なんですか!」
「惚けるな尻軽!」
常人の目付きではないことはすぐに分かった。瞳孔は開き血管も浮き出ていて、分別のつく筈の大人が公衆の面前で人目も憚らず喚き散らしている。
「部長、次長、警備部に連絡を」
「わ、分かったわ」
各所への連絡を主任に任せ、私は2人に近付く。それに気付いた花井さんは、助けを求めるようにこちらに手を伸ばした。
「お客様、どうかされましたでしょうか」
「どうもこうもねぇよこの女が…っ」
「落ち着いて話し合いましょう」
「関係ないやつは引っ込んでろ!」
首を突っ込まれたくないのならば、こんな場所で非常識なことをしないでほしい。すぐに警備員が到着するだろう、私は時間を稼ぐだけでいい。
「三笹さん、私こんな男知りません!」
「なんだと!こっちはなぁ!」
「近寄らないでよ!」
「花井さん止めて」
幾ら恐怖でパニックになっているからと言って、どうして煽るような発言をするのか。
案の定男は更に激昂し、彼女の髪を掴もうと私を押しのける。
「邪魔だどけっ!」
「やめてください、暴力はあなたの為になりません」
「煩いんだよブス!」
思いきり突き飛ばされ、ショーケースに背中を強打する。どれだけ抵抗しても、やはり男の力には敵わない。
「キャーッ!」
「三笹さん!」
倒れ込んだ私の所に主任が駆け寄る。かなり強い衝撃に喉が締まり、上手く言葉が出てこない。
「お前何をしてる!」
「うちの従業員に手を出したな!」
数名の警備員と、部長次長その他食品課の男性社員達が男を取り囲む。霞む視界の先に、ちらりと刺又のようなものが写った。
「離せっ、俺は梨奈に用があるんだよ!梨奈どこだ、絶対許さないからなぁっ!!」
どうやら男は凶器などは所持していなかったようだ。警備員に拘束され、バックヤードへと姿を消していく。その断末魔が完全に聞こえなくなるまで、随分と時間がかかった。
「お騒がせして大変申し訳ございませんでした」
部長達が事後処理を行なっている。私は主任や売場の女子社員に支えられ、医務室へと運ばれることとなった。
(最悪、ホントに痛い…っ)
ガラスケースの角に思いきりぶつかったせいで、背中が刺されたように痛む。息をすることすら苦しい中で視線だけ動かしたけれど、花井さんの姿は見当たらなかった。