合意的不倫関係のススメ
「茜」
「蒼、ごめんね」
「謝る必要ないから。それよりどうだった?」
「大したことはないよ」
会社近くの整形外科まで迎えに来てくれた蒼は、私の言葉に若干眉をひそめる。そして受付に行き自分が話を聞きたいと診察室へ入ったいった。
「筋挫傷だって。全然大したことあるじゃん」
私が平気なフリをしたことを、蒼は咎める。素直に謝罪すると、彼はいつもよりずっと長い溜息を吐いた。
「マジで心配したよ…」
「一人で帰れるかなとも思ったんだけど」
「連絡なかったら俺は怒ってるよ」
(想像つかない)
検査も終わり、骨に異常はなかった。消炎鎮痛の湿布と痛み止めの内服薬を処方され、また数日後再診するようにとのこと。
「駐車場まで車椅子使っていいって」
「大袈裟だよ、歩けるから」
「乗らないならおんぶするよ」
「…乗ります」
何だか今日の蒼は圧が強い。仕事を早退させたことも申し訳ないのに、これ以上謝るとまた不貞腐れそうだから辞めておいた。
帰宅するなり、彼は私をソファに座らせる。
「全部俺がやるから、茜は動かないで」
「申し訳ないなぁ…」
「一番辛いのは茜でしょ?こんなの、痛いに決まってる」
ぶつけた背中は広範囲に赤く腫れ、ぷっくりと膨らんでいる。血管が切れた箇所は内出血していて、筋を痛めている為に動かすと激痛が走り、動かしていない時も酷く熱を持ったそこはずきずきと疼く。
痛み止めを処方されているけれど、一日に服用できる回数には制限があるから、それも考えなければならない。
「痕、残らないといいな」
「残らないよ、大丈夫」
「うん、ありがとう」
穏やかな口調の蒼に、幾らか不安が和らぐ。彼が私の隣に腰を下ろしたのを見計らって、私は首を傾け彼の肩に頭を預けた。
「大丈夫?辛いよな」
「怪我のことは平気」
「……」
蒼は私を抱き締めようと手を伸ばしかけたようだったが、背中を気遣ったのか頬を撫でられる。
「怖かったね」
「…うん」
「被害届出そうか」
「会社とよく話し合ってみる」
「出そうよ」
変わらず穏やかな声色だったけれど、普段とは違う様子の彼を見て、きっと内心はとても腹を立てているのだと思った。
「花井さんとその男、二人共地獄に落ちればいいのに」
「そんなこと言っちゃダメだよ」
「茜は優し過ぎる」
私は別に、優しさから二人の間に入ったつもりはない。仕事中だったから、ただそれだけ。
むしろ結果的にこうして迷惑をかけているのだから、私の行動は不正解だったといえる。
「してほしいことない?」
「そうだなぁ。頑張ったなって言って?」
「嫌だ」
唇を尖らせる私を見て、ようやく蒼の表情が緩んだ。
「男相手に無茶したことは、褒められない」
「まぁ、そうだよね」
「生きててよかった」
(大袈裟だなぁ)
そう思いながらも、今こうして彼の温もりを感じていることに、私は心底安堵するのだった。
「蒼、ごめんね」
「謝る必要ないから。それよりどうだった?」
「大したことはないよ」
会社近くの整形外科まで迎えに来てくれた蒼は、私の言葉に若干眉をひそめる。そして受付に行き自分が話を聞きたいと診察室へ入ったいった。
「筋挫傷だって。全然大したことあるじゃん」
私が平気なフリをしたことを、蒼は咎める。素直に謝罪すると、彼はいつもよりずっと長い溜息を吐いた。
「マジで心配したよ…」
「一人で帰れるかなとも思ったんだけど」
「連絡なかったら俺は怒ってるよ」
(想像つかない)
検査も終わり、骨に異常はなかった。消炎鎮痛の湿布と痛み止めの内服薬を処方され、また数日後再診するようにとのこと。
「駐車場まで車椅子使っていいって」
「大袈裟だよ、歩けるから」
「乗らないならおんぶするよ」
「…乗ります」
何だか今日の蒼は圧が強い。仕事を早退させたことも申し訳ないのに、これ以上謝るとまた不貞腐れそうだから辞めておいた。
帰宅するなり、彼は私をソファに座らせる。
「全部俺がやるから、茜は動かないで」
「申し訳ないなぁ…」
「一番辛いのは茜でしょ?こんなの、痛いに決まってる」
ぶつけた背中は広範囲に赤く腫れ、ぷっくりと膨らんでいる。血管が切れた箇所は内出血していて、筋を痛めている為に動かすと激痛が走り、動かしていない時も酷く熱を持ったそこはずきずきと疼く。
痛み止めを処方されているけれど、一日に服用できる回数には制限があるから、それも考えなければならない。
「痕、残らないといいな」
「残らないよ、大丈夫」
「うん、ありがとう」
穏やかな口調の蒼に、幾らか不安が和らぐ。彼が私の隣に腰を下ろしたのを見計らって、私は首を傾け彼の肩に頭を預けた。
「大丈夫?辛いよな」
「怪我のことは平気」
「……」
蒼は私を抱き締めようと手を伸ばしかけたようだったが、背中を気遣ったのか頬を撫でられる。
「怖かったね」
「…うん」
「被害届出そうか」
「会社とよく話し合ってみる」
「出そうよ」
変わらず穏やかな声色だったけれど、普段とは違う様子の彼を見て、きっと内心はとても腹を立てているのだと思った。
「花井さんとその男、二人共地獄に落ちればいいのに」
「そんなこと言っちゃダメだよ」
「茜は優し過ぎる」
私は別に、優しさから二人の間に入ったつもりはない。仕事中だったから、ただそれだけ。
むしろ結果的にこうして迷惑をかけているのだから、私の行動は不正解だったといえる。
「してほしいことない?」
「そうだなぁ。頑張ったなって言って?」
「嫌だ」
唇を尖らせる私を見て、ようやく蒼の表情が緩んだ。
「男相手に無茶したことは、褒められない」
「まぁ、そうだよね」
「生きててよかった」
(大袈裟だなぁ)
そう思いながらも、今こうして彼の温もりを感じていることに、私は心底安堵するのだった。