合意的不倫関係のススメ
ーー
私の想像よりも遥かに、職場の仲間は私の身を案じてくれたようだ。主任は何も出来なかったと自身を責めていたし、部長や次長も何度も私に謝罪をしてくれた。
他の社員達も同様で、
「三笹さんのおかげで騒ぎが収まった」
と感謝をされた。
謝罪も感謝も、嬉しいというよりも恐縮してしまう。私は決して、自己犠牲の精神から行動を起こしたわけではないのだから。
客商売は信用を売る仕事でもあり、万が一お客様に被害が出るようなことがあれば騒動は店内だけでは済まされない。
私はそれを、避けたかっただけだ。
そして更に驚いたのは、わざわざ売場に店長がやってきたこと。姿を拝見するのは入社式以来ではないだろうかと思う程、雲の上の存在。
労いの言葉を掛けられて、私は自分がとんでもないことをしでかしてしまったと、今更ながらに肝が冷えた。
普段あまり交流のない同期達からも次々と声をかけられ、昼休憩に入る頃には私はすっかり疲弊していた。
(疲れるから放っておいてほしい)
これが私の本音だった。野次馬根性もあれど、心配してもらえることは嬉しい。けれど、とても疲れる。
「三笹さん」
もう誰も私に声を掛けないでくれと、その意思表示の為私は久々に食堂の隅に腰掛けた。その直後に、名前を呼ばれる。
「二條さん」
「お疲れ様。もう大丈夫?」
「はい、平気です。わざわざ連絡をくださってありがとうございました」
(なんだ、二條さんか)
彼は私が薦めなくても、勝手に正面に腰を下ろす。タイミングが良すぎることから、きっと売場に問い合わせでもしたのだろうと思った。
実は自宅療養中、二條さんから何度かメッセージを貰った。同期グループチャットのメンバーに参加させてもらってはいるが、個人的に送られてきたのは初めてだった。
出来ることがあればなんでも言ってほしいという旨の文章に、私は当たり障りのない返信をしていた。
「本当に災難だったね」
「でしゃばらなければよかったです」
「思ったより大事になって、内心面倒がってるでしょ」
「よく分かりましたね」
思わず目を丸くすると、二條さんは体を揺らしながら笑った。
「日常生活不便だったんじゃない?」
「蒼…夫が休みを取ってくれたので」
「それなら良かった」
よく、分からない。勘違いなのか、そうではないのか。
けれどこの間の様子から見て、二條さんは今の関係から踏み込んでくるつもりはないようだ。
私も、白黒つけることはしない。
彼とは、同期だ。私の中では一番仲のいい、頼れる同期。
今でも少し、苦手だと思う感情は残っているけれど。それは、嫌いとは違う。
「まぁ俺としては、花井さんが落とした爆弾の煙を隠れ蓑にできたし、ラッキーだけど」
「嫌な言い方しますね」
「ははっ」
(良かった)
表情だけを見れば、あの件はもう吹っ切れているように感じた。
私の想像よりも遥かに、職場の仲間は私の身を案じてくれたようだ。主任は何も出来なかったと自身を責めていたし、部長や次長も何度も私に謝罪をしてくれた。
他の社員達も同様で、
「三笹さんのおかげで騒ぎが収まった」
と感謝をされた。
謝罪も感謝も、嬉しいというよりも恐縮してしまう。私は決して、自己犠牲の精神から行動を起こしたわけではないのだから。
客商売は信用を売る仕事でもあり、万が一お客様に被害が出るようなことがあれば騒動は店内だけでは済まされない。
私はそれを、避けたかっただけだ。
そして更に驚いたのは、わざわざ売場に店長がやってきたこと。姿を拝見するのは入社式以来ではないだろうかと思う程、雲の上の存在。
労いの言葉を掛けられて、私は自分がとんでもないことをしでかしてしまったと、今更ながらに肝が冷えた。
普段あまり交流のない同期達からも次々と声をかけられ、昼休憩に入る頃には私はすっかり疲弊していた。
(疲れるから放っておいてほしい)
これが私の本音だった。野次馬根性もあれど、心配してもらえることは嬉しい。けれど、とても疲れる。
「三笹さん」
もう誰も私に声を掛けないでくれと、その意思表示の為私は久々に食堂の隅に腰掛けた。その直後に、名前を呼ばれる。
「二條さん」
「お疲れ様。もう大丈夫?」
「はい、平気です。わざわざ連絡をくださってありがとうございました」
(なんだ、二條さんか)
彼は私が薦めなくても、勝手に正面に腰を下ろす。タイミングが良すぎることから、きっと売場に問い合わせでもしたのだろうと思った。
実は自宅療養中、二條さんから何度かメッセージを貰った。同期グループチャットのメンバーに参加させてもらってはいるが、個人的に送られてきたのは初めてだった。
出来ることがあればなんでも言ってほしいという旨の文章に、私は当たり障りのない返信をしていた。
「本当に災難だったね」
「でしゃばらなければよかったです」
「思ったより大事になって、内心面倒がってるでしょ」
「よく分かりましたね」
思わず目を丸くすると、二條さんは体を揺らしながら笑った。
「日常生活不便だったんじゃない?」
「蒼…夫が休みを取ってくれたので」
「それなら良かった」
よく、分からない。勘違いなのか、そうではないのか。
けれどこの間の様子から見て、二條さんは今の関係から踏み込んでくるつもりはないようだ。
私も、白黒つけることはしない。
彼とは、同期だ。私の中では一番仲のいい、頼れる同期。
今でも少し、苦手だと思う感情は残っているけれど。それは、嫌いとは違う。
「まぁ俺としては、花井さんが落とした爆弾の煙を隠れ蓑にできたし、ラッキーだけど」
「嫌な言い方しますね」
「ははっ」
(良かった)
表情だけを見れば、あの件はもう吹っ切れているように感じた。