合意的不倫関係のススメ
人の不幸は、蜜の味。悪口やゴシップネタを嬉々として口にしている女子社員達は大勢居るが、誰かを褒めているような噂は殆ど聞かない。誰かの良いことも悪いことも、自分には関係のないことなのに。
二條さんの件についても、私が気になっていたのは彼の進退についてだけ。処罰を受けることもなく、あの土砂降りの日よりもずっと元気そうに見えたから、私はもうそれ以上を知りたいとは思わない。
「こんな高級そうなお店、緊張するね」
「茜の快気祝いだからさ」
「大袈裟だけど…嬉しい」
私の早番シフトに合わせ、蒼もいつもより早めに仕事を終わらせてくれた。
彼が予約してくれたシックな雰囲気の鉄板焼き店で、私達は赤ワインのグラスをかちんと合わせた。
「仕事どうだった?無理してない?」
「してないよ」
「重いものとか無理に運んじゃダメだよ、ちゃんと台車使って」
「気を付ける、ありがとう」
最初は罪悪感と自己嫌悪の方が強かった。私が勝手をした所為で、彼に迷惑をかけてしまったと。
蒼は、私を叱った。無茶はしないでほしいと、真剣な瞳で何度も言った。そしてその後は、たくさん甘やかしてくれた。私が申し訳ないと感じる余地さえない程に。
同じベッドで眠り、同じベッドで目覚める。最近、彼の穏やかな寝顔を見つめていると、何故だか切なくて涙が溢れそうになる。
私達は紛れもなく、家族だ。
哀しみも喜びも幸も不幸も、決して一人では背負わない。
異性として愛し合う、家族。
普段滅多に食べられない蕩けるようなステーキや、見た目から綺麗なデザートまで美味しい料理に舌鼓を打った後、私達は手を繋いで家に帰る。
私がアルコールを飲んだのは一、二杯だけで後はノンアルコールのカクテル。酒に強い蒼も、今日はあまり飲んでいないように見えた。
二人でゆっくりと湯船に浸かり、彼が私の髪を乾かす。就寝準備を整えベッドに入ると、ひんやりと冷たくて背筋が震えた。
「寒い?こっちおいで」
「蒼、あったかい」
「茜も」
蒼の腕の中で、満たされた気持ちで瞳を閉じる。耳元で響く彼の心臓の鼓動は、何故だかいつもより早鐘を打っているように感じられた。
「茜、まだ背中痛い?」
「もう大丈夫。蒼のおかげ」
私がそう口にすると、蒼がゆっくりと私の顎に手を添える。私達はそのまま、とても自然に唇を重ねた。
「茜…」
(この顔も、好き)
穏やかな表情から覗く、雄の情欲。私の奥に秘められている本能が、簡単に暴かれる。
「あのさ」
「うん?」
「茜はもし、子供ができたら…どうする?」
その瞬間、私が感じた彼の緊張は勘違いでは はなかったのだと思った。
二條さんの件についても、私が気になっていたのは彼の進退についてだけ。処罰を受けることもなく、あの土砂降りの日よりもずっと元気そうに見えたから、私はもうそれ以上を知りたいとは思わない。
「こんな高級そうなお店、緊張するね」
「茜の快気祝いだからさ」
「大袈裟だけど…嬉しい」
私の早番シフトに合わせ、蒼もいつもより早めに仕事を終わらせてくれた。
彼が予約してくれたシックな雰囲気の鉄板焼き店で、私達は赤ワインのグラスをかちんと合わせた。
「仕事どうだった?無理してない?」
「してないよ」
「重いものとか無理に運んじゃダメだよ、ちゃんと台車使って」
「気を付ける、ありがとう」
最初は罪悪感と自己嫌悪の方が強かった。私が勝手をした所為で、彼に迷惑をかけてしまったと。
蒼は、私を叱った。無茶はしないでほしいと、真剣な瞳で何度も言った。そしてその後は、たくさん甘やかしてくれた。私が申し訳ないと感じる余地さえない程に。
同じベッドで眠り、同じベッドで目覚める。最近、彼の穏やかな寝顔を見つめていると、何故だか切なくて涙が溢れそうになる。
私達は紛れもなく、家族だ。
哀しみも喜びも幸も不幸も、決して一人では背負わない。
異性として愛し合う、家族。
普段滅多に食べられない蕩けるようなステーキや、見た目から綺麗なデザートまで美味しい料理に舌鼓を打った後、私達は手を繋いで家に帰る。
私がアルコールを飲んだのは一、二杯だけで後はノンアルコールのカクテル。酒に強い蒼も、今日はあまり飲んでいないように見えた。
二人でゆっくりと湯船に浸かり、彼が私の髪を乾かす。就寝準備を整えベッドに入ると、ひんやりと冷たくて背筋が震えた。
「寒い?こっちおいで」
「蒼、あったかい」
「茜も」
蒼の腕の中で、満たされた気持ちで瞳を閉じる。耳元で響く彼の心臓の鼓動は、何故だかいつもより早鐘を打っているように感じられた。
「茜、まだ背中痛い?」
「もう大丈夫。蒼のおかげ」
私がそう口にすると、蒼がゆっくりと私の顎に手を添える。私達はそのまま、とても自然に唇を重ねた。
「茜…」
(この顔も、好き)
穏やかな表情から覗く、雄の情欲。私の奥に秘められている本能が、簡単に暴かれる。
「あのさ」
「うん?」
「茜はもし、子供ができたら…どうする?」
その瞬間、私が感じた彼の緊張は勘違いでは はなかったのだと思った。