合意的不倫関係のススメ
ーー時間の流れというものは本当に早い。十二月に入るとそれは尚更で、目の回るような忙しさに毎日追われていた。
「ただいま…」
今日も午後十一時過ぎの帰宅。百貨店の営業時間中はひたすら接客、閉店後に歳暮の発送作業を行う。中元や歳暮の時期には特設会場が設置され、そこからも伝票が回ってくる。
配送作業センターも別場所にされているのだけれど、老舗の所為か“虎ノ屋″の商品はセンターには送れず、臨時パートの方に頼むことも禁止されている為、売場での作業しかできない。
それに加え、冬場は歳暮だけでなく正月の手土産として羊羹を買い求めるお客様も多い。
ミスだけはしないようにと神経をすり減らし、拘束時間もなかり長い。毎日大量に入荷する在庫の為、肩も腰もばきばきに凝っている。
(羊羹重過ぎる)
今日もずっしりと重みのある商品をひたすら販売、包装した私の疲労はピークに達していた。
「茜、お帰り。お疲れ様」
「疲れた…」
「風呂沸いてるよ」
「ありがとう…」
蒼が本格的に忙しくなるのは二月から三月に掛けてではあるが、年末のこの時期だって決して落ち着いているわけではない。それでも私を気遣い労ってくれるので、申し訳なく思ってしまう。
「ご飯食べる?」
「うーん、もう寝たいかな。ごめんね、用意してくれてたのに」
「朝食べればいいよ」
蒼は柔らかく微笑み私の頭を撫でる。もうそれだけで眠ってしまいそうになる。
「寝ようか」
「うん」
蒼の手に誘われるままベッドに潜り込むと、その暖かさに驚く。彼は私の反応に満足げに頷いた。
「茜前言ってただろ?冷たいって。布団乾燥機はまだ買えてないから、ドライヤー突っ込んだんだ。ネットで調べて」
「暖かくて気持ちいい…」
「ほらこっち、おいで」
いつもの通り、蒼の腕の中に収まる。足元がほんのりと温もりに包まれ、すぐにでも夢の中へ旅立ってしまいそうだった。
そして何より、心遣いが嬉しい。
「蒼」
「うん?」
「ありがとう、大好き」
誰かの為に何かをしたいと思い、それを実行するということは意外と難しい。自身も仕事に追われていれば、尚更余裕がなくなる。現に私は今、自分のことしか考えられていない。
蒼は、優しい。昔からずっと。
その優しさに対して見方を変えていたのは、私の方だ。
(大好き)
ぎゅうっと抱き着けば、同じように抱きしめ返してくれる。蒼の匂いに包まれて、一日の疲労が身体から染み出しているように感じた。
「落ち着いたらまた、色んなことしようね…」
重力に逆らうことなく、私は瞼を閉じる。
蒼が耳元で愛を囁いてくれたような気がしたけれど、それが夢なのか現実なのか私には分からなかった。
「ただいま…」
今日も午後十一時過ぎの帰宅。百貨店の営業時間中はひたすら接客、閉店後に歳暮の発送作業を行う。中元や歳暮の時期には特設会場が設置され、そこからも伝票が回ってくる。
配送作業センターも別場所にされているのだけれど、老舗の所為か“虎ノ屋″の商品はセンターには送れず、臨時パートの方に頼むことも禁止されている為、売場での作業しかできない。
それに加え、冬場は歳暮だけでなく正月の手土産として羊羹を買い求めるお客様も多い。
ミスだけはしないようにと神経をすり減らし、拘束時間もなかり長い。毎日大量に入荷する在庫の為、肩も腰もばきばきに凝っている。
(羊羹重過ぎる)
今日もずっしりと重みのある商品をひたすら販売、包装した私の疲労はピークに達していた。
「茜、お帰り。お疲れ様」
「疲れた…」
「風呂沸いてるよ」
「ありがとう…」
蒼が本格的に忙しくなるのは二月から三月に掛けてではあるが、年末のこの時期だって決して落ち着いているわけではない。それでも私を気遣い労ってくれるので、申し訳なく思ってしまう。
「ご飯食べる?」
「うーん、もう寝たいかな。ごめんね、用意してくれてたのに」
「朝食べればいいよ」
蒼は柔らかく微笑み私の頭を撫でる。もうそれだけで眠ってしまいそうになる。
「寝ようか」
「うん」
蒼の手に誘われるままベッドに潜り込むと、その暖かさに驚く。彼は私の反応に満足げに頷いた。
「茜前言ってただろ?冷たいって。布団乾燥機はまだ買えてないから、ドライヤー突っ込んだんだ。ネットで調べて」
「暖かくて気持ちいい…」
「ほらこっち、おいで」
いつもの通り、蒼の腕の中に収まる。足元がほんのりと温もりに包まれ、すぐにでも夢の中へ旅立ってしまいそうだった。
そして何より、心遣いが嬉しい。
「蒼」
「うん?」
「ありがとう、大好き」
誰かの為に何かをしたいと思い、それを実行するということは意外と難しい。自身も仕事に追われていれば、尚更余裕がなくなる。現に私は今、自分のことしか考えられていない。
蒼は、優しい。昔からずっと。
その優しさに対して見方を変えていたのは、私の方だ。
(大好き)
ぎゅうっと抱き着けば、同じように抱きしめ返してくれる。蒼の匂いに包まれて、一日の疲労が身体から染み出しているように感じた。
「落ち着いたらまた、色んなことしようね…」
重力に逆らうことなく、私は瞼を閉じる。
蒼が耳元で愛を囁いてくれたような気がしたけれど、それが夢なのか現実なのか私には分からなかった。