合意的不倫関係のススメ
大晦日も無事に仕事を終え、いつもならば「お疲れ様でした」という挨拶を「良いお年を」に変えながら、スーパーに駆け込む。我が百貨店もそうだったけれど、今日はどこも早めに閉店してしまうから。
(耳が寒い…)
両手に買い物袋を抱えながらカードキーをかざそうとして、先にドアが開いたことに驚く。
「今から帰るってメッセージが来てたから、そろそろかなと思って」
「凄いね、蒼」
「お疲れ様、茜」
彼は昨日から正月休みに入っている。大掃除は十二月に突入した頃から、二人で少しずつ進めていた。
蒼の仕事は企業へのルート営業が主なので、基本的には暦通り。土日の急な出勤などもあったりするけれど、私のようなサービス業程ではない。シフトによっては夜も遅いし、年末年始や繁忙期には家のことにまで手が回らない。
この仕事は嫌いではないけれど、続けていた理由は他にもあった。いつ離婚を言い渡されても、正社員であればまだ救いはあると。
そんな保険をかけることが浅はかだと気付いた今は、蒼とすれ違ってしまう生活を寂しく感じる思いの方が日に日に強くなっていた。
「寒かっただろ、早く中入って」
蒼は荷物を受け取ると、キッチンまで運ぶ。そしてその手で、私の両耳をふわりと包み込んだ。
「うわ、冷た」
「あったかい…」
「耳当て買いなよ」
笑いながらそう言って、彼はぎゅうっと私を抱き締めた。
「「乾杯!」」
ごくごくと喉を鳴らしながら、辛口ビールを喉に流し込む。一年のあれこれも一緒に、この刺激の中へと消えていく気がした。
「ぷはあ!」
「いい飲みっぷり」
「疲れたぁ!」
「よしよし」
明日一日休んだら、二日から初売り。その後には決算が待ち構えており、完全に落ち着ける日はまだ先だ。
「今日はどれだけだらだらしても良いから、ゆっくりしよう」
「どれから食べようか迷っちゃうね」
「茜の好きなお寿司もいっぱいあるから」
「二人なのにちょっと買い過ぎちゃったかな」
年末年始はつい買い過ぎる。蒼も買い出しをしてくれていたから、一週間は買い物せずに済みそうだ。
「ほら蟹も食べて」
二人用の小さな鍋で蟹すきもしていて、先程から蒼がせっせと私の前に料理を取り分けてくれる。
あまりにも甲斐甲斐しいから、つい笑ってしまった。
「何で笑うの?」
「だって過保護過ぎるから」
「それこの間五十嵐先輩にも言われた」
「もし子供が出来たら、親バカになりそうだなって?」
私の言葉に、蒼は拗ねたように唇を尖らせる。
「バカまでは言われてません」
「あはは、ごめんね」
まさか蒼とこんな風に、未来や子供の話をする日が来るなんて思ってもいなかった。
「ほらほら、食べて」
「お腹いっぱい!」
暖かな部屋の中二人、心から幸せだと感じていた。
(耳が寒い…)
両手に買い物袋を抱えながらカードキーをかざそうとして、先にドアが開いたことに驚く。
「今から帰るってメッセージが来てたから、そろそろかなと思って」
「凄いね、蒼」
「お疲れ様、茜」
彼は昨日から正月休みに入っている。大掃除は十二月に突入した頃から、二人で少しずつ進めていた。
蒼の仕事は企業へのルート営業が主なので、基本的には暦通り。土日の急な出勤などもあったりするけれど、私のようなサービス業程ではない。シフトによっては夜も遅いし、年末年始や繁忙期には家のことにまで手が回らない。
この仕事は嫌いではないけれど、続けていた理由は他にもあった。いつ離婚を言い渡されても、正社員であればまだ救いはあると。
そんな保険をかけることが浅はかだと気付いた今は、蒼とすれ違ってしまう生活を寂しく感じる思いの方が日に日に強くなっていた。
「寒かっただろ、早く中入って」
蒼は荷物を受け取ると、キッチンまで運ぶ。そしてその手で、私の両耳をふわりと包み込んだ。
「うわ、冷た」
「あったかい…」
「耳当て買いなよ」
笑いながらそう言って、彼はぎゅうっと私を抱き締めた。
「「乾杯!」」
ごくごくと喉を鳴らしながら、辛口ビールを喉に流し込む。一年のあれこれも一緒に、この刺激の中へと消えていく気がした。
「ぷはあ!」
「いい飲みっぷり」
「疲れたぁ!」
「よしよし」
明日一日休んだら、二日から初売り。その後には決算が待ち構えており、完全に落ち着ける日はまだ先だ。
「今日はどれだけだらだらしても良いから、ゆっくりしよう」
「どれから食べようか迷っちゃうね」
「茜の好きなお寿司もいっぱいあるから」
「二人なのにちょっと買い過ぎちゃったかな」
年末年始はつい買い過ぎる。蒼も買い出しをしてくれていたから、一週間は買い物せずに済みそうだ。
「ほら蟹も食べて」
二人用の小さな鍋で蟹すきもしていて、先程から蒼がせっせと私の前に料理を取り分けてくれる。
あまりにも甲斐甲斐しいから、つい笑ってしまった。
「何で笑うの?」
「だって過保護過ぎるから」
「それこの間五十嵐先輩にも言われた」
「もし子供が出来たら、親バカになりそうだなって?」
私の言葉に、蒼は拗ねたように唇を尖らせる。
「バカまでは言われてません」
「あはは、ごめんね」
まさか蒼とこんな風に、未来や子供の話をする日が来るなんて思ってもいなかった。
「ほらほら、食べて」
「お腹いっぱい!」
暖かな部屋の中二人、心から幸せだと感じていた。