合意的不倫関係のススメ
蒼から告白されたことは、私にとってはとても衝撃的だった。蒼は当時から女子の間で人気が高く、にも関わらず浮いた噂はなかったようで。そんな彼の初めてともいえる正式な彼女が私だったものだから、当時はかなり厳しい目で見られた。

とはいえウチの高校は比較的に穏やかな雰囲気だった為、あからさまな嫌がらせや暴力はなかった。すれ違いざまに「ブス」と囁かれたり、陰口を言われたり、私がいても蒼にアピールしたりと、その程度だった。

一緒にマネージャーとして入った友達が、蒼ではなくキャプテンと付き合っていたというのも大きいかもしれない。

私と違って目立っていた友達が味方だったことで、幾らかの抑止力にはなっていたと思う。

それに私自身、言われて当然だと思っていた。あの頃は化粧の仕方もろくに知らず、着飾ることに興味もなかった。彼と自分がつり合わないことは、自分自身が一番よく理解していたのだ。

そう思いながらも、私の中で彼を拒絶する選択肢なんてなかった。優しくて、私を認めてくれて、少し恥ずかしそうに好きだと伝えてくれる蒼を。

私はもうとっくに、大好きになっていたから。

彼に私は相応しくない、もっと可愛くて性格のいい子は幾らでもいる。だから本当は身を引くべきなのかもしれないと、頭ではいつも思っていた。

しかし同時に、そんな蒼に選ばれた自分は特別なのではないかと、心の奥底では思っていた。彼は私のことが好きで、私が離れるときっと悲しむ。大好きな蒼を、傷つけることになってしまう。

「私も、三笹先輩のことが好きです」

勇気を振り絞りそう答えた時の彼のあの嬉しそうな表情を、私は死ぬまで忘れない。

まるで宝物でも包み込むかのようにぎゅっと、優しく抱き締めてくれたあの温もりも。

知っていくにつれ、少しずつ話してくれた彼の生い立ち。それを聞いた時私は、とても不思議な気分だったのを今でも覚えている。

ーーあぁ、私達は似た物同士なんだ

と、あの時高揚感に胸が躍っていた。
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