合意的不倫関係のススメ
美空と居るのは、気が楽だし楽しかった。私は彼女のように交友関係も広くなければ、SNSさえ開設していないようつまらない人間だ。

こんなことばかり考えているとすぐに、心の中が染まっていく。だから私は《《あんなこと》》をされるのだ、と。

「でね?その時陽一が…」

(ああ、聞き役って楽だな)

にこにこと笑いながら、頭の中では自身の咀嚼音がやけに響いていた。

「それでね、結局許しちゃったの」
「仲良いよね、二人って」
「そう?私からすれば茜達の方がよっぽど穏やかでいいじゃん。喧嘩なんかしないもんね」
「お互い、そういうのが面倒なだけだよ」

小さなことでよく揉めている美空には言えない。

喧嘩が、羨ましいだなんて。

「三笹先輩が怒ってる所なんか想像できない」
「うん」
「茜が怒ってるところも」
「私も」

なにそれ、と言いながら笑う美空の頬はアルコールのせいかほんのりと赤い。

「でもさ。もし三笹先輩が浮気でもしようもんなら、流石の茜もブチギレるでしょ?」
「どうだろう。その時になってみないと」
「あの三笹先輩に限ってありえないか。だって、茜のことめっちゃ大切してるもんね」

(このワイン、最初からこんな濃い色だったっけ)

蒼を褒めちぎる彼女の言葉を聞きながら、ワイングラスを見つめる。

今朝蒼が教えてくれた店からあえて離れた場所を選んだ自分の胸の内を、ぼうっと考えた。

もしも彼が、浮気をしたら。

そんなことを考えるだけ、時間の無駄だ。
< 19 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop