合意的不倫関係のススメ
EP.3「烙印」
ーー
その日は確か、とても綺麗な碧天 だった。洗濯物を干したいと思ったけれど、蒼との約束があったから諦めたのを覚えている。
私は十八で、蒼は二十。彼は大学三年生で、真面目に講義を受けつつバイトの方にも精を出していた。
私は高校卒業後すぐ、百貨店に就職した社会人一年目の未熟者。スケジュールの詰め込まれた新人研修と環境の変化についていけず、心身共に疲れ果てていた時期だった。
比較的時間に余裕のあった蒼からの誘いに私は応じられなかったが、彼がそれを責めることは決してなかった。この時の私が、彼が寂しさを堪えていることに気付けず、自分のことしか考えられていなかったのは確かだ。
そんな生活の中で、やっと土日の二連休を取ることができた日があった。ゆっくり会うのは、約一ヶ月ぶり。約束は土曜だったけれど、どうせなら早く会いたいと仕事終わりの金曜の夜に、私は彼の学生寮へと向かった。
今思えば、幾ら彼女といえど連絡もなしに尋ねるのは非常識だったかもしれない。普段なら絶対にしないけれど、この時はとにかく早く会いたいという思いが勝ってしまったのだ。
外から見上げた時、彼の部屋の電気は消えていた。だから私はてっきり、蒼はどこかへ出かけまだ帰宅していないのだと思った。インターフォンを鳴らさずに、合鍵を使い扉を開けた。
百貨店の地下で購入した惣菜と、蒼の為のビール。それらが入ったビニール袋の紐を、私はキツく握り締める。
玄関に、見覚えのない靴があったからだ。照明のスイッチを押してすぐ、それは私の視界に飛び込んできた。
エナメル素材の、真っ赤なパンプス。一五センチはありそうなピンヒールで、揃えられることなく玄関に散らばっている。
明らかに持ち主のいるそれは、今この部屋に蒼ともう一人の誰かが居るということを、私に知らしめた。
たったこれだけの情報で、すぐに持ち主の人物像が浮かぶ。
絶対に、私とは違う種類の派手な女であると。
その日は確か、とても綺麗な碧天 だった。洗濯物を干したいと思ったけれど、蒼との約束があったから諦めたのを覚えている。
私は十八で、蒼は二十。彼は大学三年生で、真面目に講義を受けつつバイトの方にも精を出していた。
私は高校卒業後すぐ、百貨店に就職した社会人一年目の未熟者。スケジュールの詰め込まれた新人研修と環境の変化についていけず、心身共に疲れ果てていた時期だった。
比較的時間に余裕のあった蒼からの誘いに私は応じられなかったが、彼がそれを責めることは決してなかった。この時の私が、彼が寂しさを堪えていることに気付けず、自分のことしか考えられていなかったのは確かだ。
そんな生活の中で、やっと土日の二連休を取ることができた日があった。ゆっくり会うのは、約一ヶ月ぶり。約束は土曜だったけれど、どうせなら早く会いたいと仕事終わりの金曜の夜に、私は彼の学生寮へと向かった。
今思えば、幾ら彼女といえど連絡もなしに尋ねるのは非常識だったかもしれない。普段なら絶対にしないけれど、この時はとにかく早く会いたいという思いが勝ってしまったのだ。
外から見上げた時、彼の部屋の電気は消えていた。だから私はてっきり、蒼はどこかへ出かけまだ帰宅していないのだと思った。インターフォンを鳴らさずに、合鍵を使い扉を開けた。
百貨店の地下で購入した惣菜と、蒼の為のビール。それらが入ったビニール袋の紐を、私はキツく握り締める。
玄関に、見覚えのない靴があったからだ。照明のスイッチを押してすぐ、それは私の視界に飛び込んできた。
エナメル素材の、真っ赤なパンプス。一五センチはありそうなピンヒールで、揃えられることなく玄関に散らばっている。
明らかに持ち主のいるそれは、今この部屋に蒼ともう一人の誰かが居るということを、私に知らしめた。
たったこれだけの情報で、すぐに持ち主の人物像が浮かぶ。
絶対に、私とは違う種類の派手な女であると。