合意的不倫関係のススメ
「最近、夜によく電話かかってくるね。友達?」
「ううん、取引先の人」
「プライベートの携帯に連絡してくるんだ、しかも夜に」
「ちょっと変わった人だよね」
誤魔化すようにあははと笑えば、蒼も追及してくることはなかった。この件はそれで終わり、私の中では過去のくだらないこととしてすぐに風化していった。
「…茜、おいで」
「うん」
エアコンの効いた部屋で、彼はぴたりと私に寄り添う。何をするでもなく、ただ子供のように私に甘えた。
最初はとても嬉しかったし、愛しいと思えた。変わらず彼は優しくて、そこに甘さが加わると更に優しいと感じられた。
けれどふと、思いだしてしまったのだ。
蒼がしでかした“あの時”もしばらく、こんな風に私に甘えていたような気がする、と。
(もしかしてこれは、罪滅ぼし?罪悪感の裏返し?まさか…)
一度そう考え始めると、止まらなくなった。ロック番号を共有している彼の携帯を調べ、何度か会社帰りに跡をつけたりもした。その結果、特段怪しい行動は見受けられない。
けれど、きっと何かある。
だって蒼が、私を抱かなくなってしまったのだから。
「こうして傍にいられるだけで十分だ」
「…うん」
(嘘だ)
本心ではきっとまた、私に飽き始めているのだ。母親から受けた傷の捌け口を、求めたいと思っているのかもしれない。だってあの時の彼は、まともじゃなかった。
ーーみっともねぇんだよ、この淫乱が
あの時、激しい性行為の音を響かせながら相手を口汚く罵っていた蒼の口調や声色を、今でも鮮明に覚えている。あれはきっと、彼のトラウマの形。
だとするならば、また《《そう》》したいと思う時が来ても不思議ではない。正に今、彼はその衝動に駆られているのではないか。まだ行動には移していなかったとしても、いずれ耐えきれなくなってしまうのではないかと、私の心は強迫観念に蝕まれていった。
やたらに甘えてくるのも、私を抱かないのも、そのその前兆。そう思えば何故かとてもしっくり来た。
(また、あの時みたいな思いを)
そう考えただけで、死にたくなった。
「ううん、取引先の人」
「プライベートの携帯に連絡してくるんだ、しかも夜に」
「ちょっと変わった人だよね」
誤魔化すようにあははと笑えば、蒼も追及してくることはなかった。この件はそれで終わり、私の中では過去のくだらないこととしてすぐに風化していった。
「…茜、おいで」
「うん」
エアコンの効いた部屋で、彼はぴたりと私に寄り添う。何をするでもなく、ただ子供のように私に甘えた。
最初はとても嬉しかったし、愛しいと思えた。変わらず彼は優しくて、そこに甘さが加わると更に優しいと感じられた。
けれどふと、思いだしてしまったのだ。
蒼がしでかした“あの時”もしばらく、こんな風に私に甘えていたような気がする、と。
(もしかしてこれは、罪滅ぼし?罪悪感の裏返し?まさか…)
一度そう考え始めると、止まらなくなった。ロック番号を共有している彼の携帯を調べ、何度か会社帰りに跡をつけたりもした。その結果、特段怪しい行動は見受けられない。
けれど、きっと何かある。
だって蒼が、私を抱かなくなってしまったのだから。
「こうして傍にいられるだけで十分だ」
「…うん」
(嘘だ)
本心ではきっとまた、私に飽き始めているのだ。母親から受けた傷の捌け口を、求めたいと思っているのかもしれない。だってあの時の彼は、まともじゃなかった。
ーーみっともねぇんだよ、この淫乱が
あの時、激しい性行為の音を響かせながら相手を口汚く罵っていた蒼の口調や声色を、今でも鮮明に覚えている。あれはきっと、彼のトラウマの形。
だとするならば、また《《そう》》したいと思う時が来ても不思議ではない。正に今、彼はその衝動に駆られているのではないか。まだ行動には移していなかったとしても、いずれ耐えきれなくなってしまうのではないかと、私の心は強迫観念に蝕まれていった。
やたらに甘えてくるのも、私を抱かないのも、そのその前兆。そう思えば何故かとてもしっくり来た。
(また、あの時みたいな思いを)
そう考えただけで、死にたくなった。