合意的不倫関係のススメ
気が付けば昼だった。やけに腰や肩が重く痛くて、そういえばここは漫画喫茶だったと思い出した。

(流石に終わってるよね)

テーブルの上に置かれた携帯の画面は真っ暗。憂鬱な気分で電源を入れた。頭が割れそうに痛い。

(あれ…ない…)

小型カメラの連動アプリが消えている。自分で削除したのだろうけれど、全く記憶になかった。

次に気付いたのは、メッセージアプリの未読表示。その数字があまりにも大きくて驚く。開いてみると、蒼からだった。

ーー茜、まだ帰れそうにないのかな

ーー体調が悪い?飲み過ぎた?

ーー電話繋がらないけど、大丈夫?

ーー心配だから、連絡ください

「……」

きっとこれは、彼の本心。優しいのも気遣いができるのも、別に無理に繕っている訳じゃない。

安心、するべきなのだろう。私はまだ、見捨てられていないと。

彼とは別にもう一通、私が蒼と寝るよう依頼したあの女からもメッセージが来ていた。大方成功したという業務報告だろうと、唇を噛み締めながらタップする。

ーー旦那さんとお幸せに

「…ふざけんな」

思わず声に出してしまった。やり場のない憤りが身体中の血管を駆け巡って、勢いよく外に流れ出してしまうのではないかと思った。

最悪の気分だった。このままどこかへ消え去ってしまいたいくらいに。

(やめた方がよかった?意味なんかあった?)

心の中に重く沈むのは、激しい後悔だけ。嫉妬と恐怖に駆られ、何と馬鹿げたことをしてしまったんだろうと、顔が歪み視界がぼやける。

「泣くなよ…悪いのは自分じゃん…」

やられる前にやっただけ。こっちの方がずっと、傷は浅くて済む。

そう思っていた筈なのに。

「本当…馬鹿過ぎる」

痛くて痛くて、涙が止まらなかった。
< 45 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop