合意的不倫関係のススメ
「ただいま」
どんな顔をしたら良いのか分からなかった。だから私は、ただ申し訳なさそうに眉尻を下げながら笑うだけ。
「茜お帰り!携帯繋がらないから心配した。体調悪かった?大丈夫?」
「ちょっと話が盛り上がっちゃって」
すぐこちらに飛んできて、心配そうに私の身体のあちこちに手を触れる蒼。それは演技でも何でもなくて、ただ純粋に私を心配しているように見えた。
(別に演技でもいい)
私にとって本心かそうでないかは然程重要ではない。だって、演技してでも私を手放したくないと思ってくれているのなら、それは作戦が成功したといえるのだから。
「ホントに大丈夫?何もなかった?」
「うん。心配かけてごめんね」
彼は、私が「つい盛り上がって時間を忘れる」性分の人間ではないと知っている。けれどもう、これ以上の追求はなさそうだ。
「もう夕方だね。ご飯どうしようか」
「宅配でもとろう。今日はゆっくりして」
「ありがとう」
蒼は一言も私を責めない。その大きな掌を私の頭にぽんと乗せた後、先に風呂を沸かすと言って浴室の方へ歩いていった。
私はのろのろとした足取りで寝室まで来ると、冷えた指先で扉を開ける。そこはいつもとなんら変わりはないのに、胃の中の何かが込み上げてくる感覚に思わず何度かえずいた。
(窓、開けなきゃ)
恐らくもうとっくに換気はしてあるのだろうけれど、そうしなければ気が済まない。
私が寝室で事に及ぶよう指示したのは、単に証拠が欲しかったから。依頼した女に小型カメラを渡す程、信頼はできなかった。
一度目の浮気の時だって、現場は蒼の部屋の寝室だった。だから平気だと、そう思っていたのに。
このままここにいたら発狂して今すぐシーツを引き裂いてしまいそうで、私は荷物を置くこともせずすぐに踵を返して部屋を出た。
「茜、宅配頼むの何がいい?」
携帯の画面をこちらに向けながら微笑む蒼を見て、泣きたくなる。混ぜてはいけない何かを素手でぐちゃぐちゃに掻き回しているような感覚に、また吐きそうになった。
どんな顔をしたら良いのか分からなかった。だから私は、ただ申し訳なさそうに眉尻を下げながら笑うだけ。
「茜お帰り!携帯繋がらないから心配した。体調悪かった?大丈夫?」
「ちょっと話が盛り上がっちゃって」
すぐこちらに飛んできて、心配そうに私の身体のあちこちに手を触れる蒼。それは演技でも何でもなくて、ただ純粋に私を心配しているように見えた。
(別に演技でもいい)
私にとって本心かそうでないかは然程重要ではない。だって、演技してでも私を手放したくないと思ってくれているのなら、それは作戦が成功したといえるのだから。
「ホントに大丈夫?何もなかった?」
「うん。心配かけてごめんね」
彼は、私が「つい盛り上がって時間を忘れる」性分の人間ではないと知っている。けれどもう、これ以上の追求はなさそうだ。
「もう夕方だね。ご飯どうしようか」
「宅配でもとろう。今日はゆっくりして」
「ありがとう」
蒼は一言も私を責めない。その大きな掌を私の頭にぽんと乗せた後、先に風呂を沸かすと言って浴室の方へ歩いていった。
私はのろのろとした足取りで寝室まで来ると、冷えた指先で扉を開ける。そこはいつもとなんら変わりはないのに、胃の中の何かが込み上げてくる感覚に思わず何度かえずいた。
(窓、開けなきゃ)
恐らくもうとっくに換気はしてあるのだろうけれど、そうしなければ気が済まない。
私が寝室で事に及ぶよう指示したのは、単に証拠が欲しかったから。依頼した女に小型カメラを渡す程、信頼はできなかった。
一度目の浮気の時だって、現場は蒼の部屋の寝室だった。だから平気だと、そう思っていたのに。
このままここにいたら発狂して今すぐシーツを引き裂いてしまいそうで、私は荷物を置くこともせずすぐに踵を返して部屋を出た。
「茜、宅配頼むの何がいい?」
携帯の画面をこちらに向けながら微笑む蒼を見て、泣きたくなる。混ぜてはいけない何かを素手でぐちゃぐちゃに掻き回しているような感覚に、また吐きそうになった。