合意的不倫関係のススメ
「ねぇ、あの子。茜に似てる」
「えぇ、そうかな。私あんなに可愛くないよ」
「いや、似てるって」

ペットショップにて、私達は他愛ない会話を交わす。はっきりと話し合ったことはないけれど、子供を持つ勇気はお互いにきっとない。

新しい家族を迎えたいね、と前々から話してはいるものの、生き物を飼ったことがないのでなかなか踏み出せずにいた。

「やっぱり犬ってお世話とか大変だよね。あんまり構えなかったら可哀想だし」
「最近はスマホで様子確認出来るカメラとか、自動で餌やりしてくれる機械とか、色々あるみたいだよ」
「へぇ、そうなんだ。凄いね」

一瞬脳裏に浮かんだクローゼットの映像を、笑顔の裏に隠す。

「まぁ命を預かるのは大変なことだし、どれだけ慎重になったっていいと思うよ」
「こうやってガラス越しに見てるだけでも癒されるね、不思議」
「可愛いよな」

ここに並んでいるだけでも、それぞれに性格が違っているのがすぐに分かる。ひたすら寝ている子や、きらきらした瞳でこちらを見つめている子、おもちゃに夢中な子、本当に多種多様でいつまででも眺めていられそうだ。

「これ見て、犬と触れ合えるカフェとかあるって」

蒼が私の肩を指でつつく。向けられた携帯の画面を素直に覗き込んだ。

「ホントだ、楽しそう」
「行ってみる?そんな遠くない場所だし」
「行きたい行きたい」
「予約とかいるかな」

ホームページで詳細を確認しているらしい彼の横顔を、わくわくした面持ちで見つめる。

庭付きの一軒家、可愛いペット、仲の良い姉妹、週末のお出掛け。小さな頃から憧れていた、些細な日常。それは蒼も同じで、私達は幸せな家族というものへの憧れが強い。

同時に、不安も付き纏う。自身が経験していないことを、どんな風に再現すればいいのか。もしも子供が出来たら、ちゃんと幸せにしてやれるのか。断言できるほどの自信がない。

「茜、行こう」
「うん」

調べ終えたのか、蒼が私の手を繋ぐ。それに頷きペットショップを後にした私達は、次の目的地に向かい歩き出した。

「ちょっとごめん、電話みたい」

ところで、バッグの中の携帯が震える。表示が職場からだったので、無視する訳にもいかない。

「はい、三笹です。はい、えっ…それは…はい、分かりました。今出先なので、また折り返します」

主任からの電話を切り、蒼を見上げる。

「ごめん、外商のお客様のトラブルみたいで。私が対応しないと謝罪も受けないって怒ってるみたい」
「大変じゃん、今から来いって?」
「ごめん、いいかな」
「俺のことは気にすんなって」

彼は優しく微笑みながら、私の頭を撫でた。
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