合意的不倫関係のススメ
女子からも男子からも好かれやすいタイプではないことは、自覚している。友達も少ないし、蒼以外の男性も知らない。

真面目で堅く見えるのか、息がつまると影でよく言われる。

だけど、それでも構わない。だって私には、蒼がいてくれるのだから。

「おっ、三笹さんじゃん。お疲れ〜」

社員食堂の端のテーブルで自分で作った弁当を食べていると、ふいに頭上から声をかけられる。

顔を上げると、軽薄そうな笑みを浮かべた人物と目が合った。

「二條さん。お疲れ様です」
「今日も弁当?偉いねぇ」

ひょいと覗き込みながら、彼はナチュラルに私の隣に腰掛ける。基本的に、パーソナルスペースの近い人なのだろうと思う。

「その唐揚げ、一個ちょうだい?」
「構いませんが、普通ですよ」
「それがいいんだって」

仲が良いわけでもない人間にこんな風に接することができる才能は、純粋に凄いと思う。彼は私と違って、万人に好かれるタイプだ。

「やっぱ旨いなー。俺、三笹さんの味付け好きなんだよね」
「昼食はもう済んだんですか?」
「いや、今から出なきゃいけないからさ。さっき売り場行ったら三笹さんお昼行ったって言うから、来てみたの」

もぐもぐと口を動かしながらそう言って笑う二條さんは、もうすぐ三十とは思えない程に若く見える。

「注文書預けたからよろしくね」
「分かりました、後で確認します」
「三笹さんに任せとけば安心だから助かります」

こんな風にして、上手く人を動かすのが彼のスタイルなんだろうなといつも思う。彼は百貨店の花形ともいえる外商部に所属していて、基本的に売場の私達とは然程交流もない。

外商部の人間は売場を見下しているような態度の人も多く、自分達が注文をとってきてやっている、と無茶な納期を当然のように要求してくる外商員も珍しくない。

そんな中で、決して尊大な態度を取らず腰の低い二條さんは、売場の人間達からも評判が良かった。

まぁ後は単純に、容姿がいいというのもある。長身で手足が長く、目鼻立ちのハッキリとした顔立ち。ハイブランドのスーツを嫌味なく着こなすその姿は、私から見ても確かに素敵だった。

「おっとそろそろ行かなきゃ。ご馳走様、またね三笹さん」
「お疲れ様です」

彼は笑顔で、片手を上げて去っていく。周囲の女子社員達が怪訝そうな顔でこちらを見ていたことに気付いたけれど、特に気にもならなかった。
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