合意的不倫関係のススメ
「私三笹さんにはホントにお世話になっててぇ〜。憧れっていうか、尊敬してるんです〜」
(あまりに見えすいた嘘はいっそ清々しい)
何故か今、私の斜め前には花井さんがいる。その横は確か彼女と同時期に入社した契約社員だったような、記憶が曖昧だけれど外商部の事務担当だというのは知っている。
彼女のお目当てははどうやら二條さんのようで、どこから聞きつけたのか知らないけれど情報源は多分彼女だろう。
私達が店に入る寸前にまるで偶然かのように現れ、了承すら得ない内から側についてきた。
別に誰が二條さんを狙おうと、私には関係のない話。けれど花井さん、彼女の行動は見過ごせなかった。
「蒼さんってとっても素敵です!正にできる営業さんって感じ!」
「買い被り過ぎですよ」
「そんなこと絶対にありませんって!」
(苛々する)
仕事は出来ないくせに男に媚びることだけは一人前で、職場の先輩の夫に対してここまで露骨にアピールできる、その脳の構造が見てみたいと思う。
きっと、自分の幸せの為なら平気で人を裏切ることのできる、信頼性のかけらもない人間。
正に、彼の母親のような。
(ほんと、いらいらする)
「三笹さん、どう?美味しい?」
「…」
「三笹さん?」
何度か名前を呼ばれ、ハッとして視線を前に向ける。隣にべっとりと外商事務の女子を貼り付けながら、二條さんが私に向かって微笑んでいた。
「あ…はい。どれもとても美味しいです」
「でしょ?前連れてきてもらった時、なんか三笹さんの好みそうな味付けだなーって思ったんだよね」
正直にいえばそれどころではないので味など分からないが、社交辞令に対してそんな風に喜ばれると、少々困ってしまう。
「料理上手な奥さんがいて、蒼さんが羨ましいですよ。僕自炊しないから、毎日毎日外食かコンビニで」
「…茜の手料理を食べたことが?」
「ああ、何度かお弁当をもらったんです。ね、三笹さん」
もらったというより奪ったと表現してほしかったが、敢えて訂正はしない。蒼は変わらず穏やかな表情で、私に向かって目を細めた。
「そうだね。茜の手料理が毎日食べられて、僕は幸せ者だと思う」
「そんな、大袈裟よ」
「蒼さんって、どんな食べ物がお好きなんですか?」
私が褒められている状況が明らかに気に入らないといった様子の花井さんが、会話に割り込んでくる。蒼の唇が何かを紡ごうとした、それよりも先に。
「あのさぁ。さっきから見てて気分悪いからいい加減やめてくれない?既婚者に色目使ってさ、自分で浅ましいと思わないの?」
二條さんが、色の籠らない瞳で隣に座る花井さんに視線を向けた。
(あまりに見えすいた嘘はいっそ清々しい)
何故か今、私の斜め前には花井さんがいる。その横は確か彼女と同時期に入社した契約社員だったような、記憶が曖昧だけれど外商部の事務担当だというのは知っている。
彼女のお目当てははどうやら二條さんのようで、どこから聞きつけたのか知らないけれど情報源は多分彼女だろう。
私達が店に入る寸前にまるで偶然かのように現れ、了承すら得ない内から側についてきた。
別に誰が二條さんを狙おうと、私には関係のない話。けれど花井さん、彼女の行動は見過ごせなかった。
「蒼さんってとっても素敵です!正にできる営業さんって感じ!」
「買い被り過ぎですよ」
「そんなこと絶対にありませんって!」
(苛々する)
仕事は出来ないくせに男に媚びることだけは一人前で、職場の先輩の夫に対してここまで露骨にアピールできる、その脳の構造が見てみたいと思う。
きっと、自分の幸せの為なら平気で人を裏切ることのできる、信頼性のかけらもない人間。
正に、彼の母親のような。
(ほんと、いらいらする)
「三笹さん、どう?美味しい?」
「…」
「三笹さん?」
何度か名前を呼ばれ、ハッとして視線を前に向ける。隣にべっとりと外商事務の女子を貼り付けながら、二條さんが私に向かって微笑んでいた。
「あ…はい。どれもとても美味しいです」
「でしょ?前連れてきてもらった時、なんか三笹さんの好みそうな味付けだなーって思ったんだよね」
正直にいえばそれどころではないので味など分からないが、社交辞令に対してそんな風に喜ばれると、少々困ってしまう。
「料理上手な奥さんがいて、蒼さんが羨ましいですよ。僕自炊しないから、毎日毎日外食かコンビニで」
「…茜の手料理を食べたことが?」
「ああ、何度かお弁当をもらったんです。ね、三笹さん」
もらったというより奪ったと表現してほしかったが、敢えて訂正はしない。蒼は変わらず穏やかな表情で、私に向かって目を細めた。
「そうだね。茜の手料理が毎日食べられて、僕は幸せ者だと思う」
「そんな、大袈裟よ」
「蒼さんって、どんな食べ物がお好きなんですか?」
私が褒められている状況が明らかに気に入らないといった様子の花井さんが、会話に割り込んでくる。蒼の唇が何かを紡ごうとした、それよりも先に。
「あのさぁ。さっきから見てて気分悪いからいい加減やめてくれない?既婚者に色目使ってさ、自分で浅ましいと思わないの?」
二條さんが、色の籠らない瞳で隣に座る花井さんに視線を向けた。