合意的不倫関係のススメ
せっかくの休日を台無しにしたのは私だ。休日出勤しなければ、二人で穏やかな時間を過ごすことができたのに。

私はいつもそうだ。自身の選択が、結果的に自分の首を絞める。心臓を握り潰されるようなこの痛みも、結局私のせいなのだ。

いつから道を違えたのか、もう分からない。三年前からなのか六年前からなのか、それとも付き合ったこと自体なのか。

(こんなに好きなのに)

どうして何もかもが、少しずつズレていくのだろう。

「…茜?」
「どうして、花井さんの味方したの?」

初めてかもしれない、彼の手を払ったのは。現に今も、本当はとても後悔している。だって一度払ったら、また繋いでくれる保証などどこにもないのだから。

「…嘘、ごめん。今のなしにして」
「茜」
「分かってる。蒼は私のことを考えてくれたんだよね」

彼の性分と、帰り際花井さんに掛けていた台詞を考えれば、それは理解できる。蒼も二條さんと同じように、相手の気質を見抜く術に長けている。彼女を邪険に扱えば攻撃を受けるのは私だと、そう考えたのだろう。

だから、刺激しないようああ言った。頭ではきちんと理解できる、筈なのに。

(二條さんみたいに、言って欲しかった)

後のことなんて、考えなくていいから。

「ごめん。茜の気持ち考えられてなかった」
「謝らないで。蒼は悪くない」
「でも傷付けた」
「傷付いてないから大丈夫」

必死に表情を取り繕ってみてもきっと、上手く作れていない。彼はもう一度こちらに手を伸ばし、今度は力強く握った。

「二條さんが茜を庇ったから?だから俺はもういいの?」
「二條さん?何でここでその名前が」
「彼、明らかに茜に気があった」

(意味分かんない)

二條さんが私を?そんなことはあり得ない。彼とはただの同期だし、私に気があるなんてどこをどう見たらそういう見方になるのだろう。

引くて数多の二條さんが、わざわざ私を狙う意味がない。

「それは花井さんでしょ?彼女のことは庇って二條さんの方を悪く言うなんてどうかしてる」
「茜こそ、俺よりあの男を信じるの?」
「だからどうしてそうなるのよ」

論点をずらそうとしているようにしか思えず、つい声が荒くなる。

私の為だと分かっていても、彼女を庇ったのは他の意図もあったのではないかと、勘繰ってしまう。

(もしも、彼女と蒼が)

頭の端に想像しただけで、気が狂ってしまいそうだった。

「…もうやめよう。こんな言い合い、意味ないよ」
「茜は、俺のこと好き?」

縋るようなその問い掛けに何と答えたのか、自分でもよく分からなかった。
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