合意的不倫関係のススメ
ちゅ、ちゅ、と響くリップ音。いつもと違う空間で、私達はお互いの体を抱きしめ合う。

「蒼、シャワーは」
「今すぐ茜が欲しい」
「ん…っ」

これはきっと、喜ばしいこと。これだけ長い間一緒にいて、彼は尚私に欲情してくれるのだから。

これは、喜ばしいことなのだ。

紺色のピンタックワンピースのファスナーを、蒼の長い指がゆっくりと下ろす。ぱさりと床に落ちたのが合図のように、私達は更に深く唇を重ねた。

「ん……、ぁ、ふ……っ」
「茜、凄い色っぽい…」

耳元で名前を呼ばれると、背筋が震える。少しずつゆっくりと、彼は私の肌を唇で愛撫していく。もどかしくも感じるそれが、私の理性を簡単に剥ぎ取った。

蒼はいつだって、とても丁寧に私を抱いてくれる。前戯にも時間をかけ、身も心もとろとろに溶かされた私は彼を簡単に受け入れてしまう。

“セックスは受け身ばかりではダメ“だと、いつだったか美容院かどこかで読んだ女性雑誌に書いてあった。

私なりに知識をつけ、蒼に奉仕しようと試みたこともある。けれど彼は決まって「茜はそんなことしなくていい」と微笑む。

「これは、俺が君への愛を伝える時間だから」

と。

私にできるのは、体型が崩れないように努力をすることだけ。

だって、セックスにおいてその他で繋ぎ止められる魅力が、私にはないから。
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