合意的不倫関係のススメ
本日もつつがなく業務を終え、帰宅する。今日は私の方が遅かったので、蒼がメインとなるものを買ってくれていた。後は作り置きのを何品か並べればいいだけなので、とても楽だ。
「駅前の居酒屋が店の前で焼鳥焼いててさ。あの匂いには逆らえなかった」
「確かに、それは私も買っちゃうかも」
「だろ?ほら食べよう」
二人向かい合わせに座り、両手を合わせる。串を持ち豪快にぱくりとかぶりつくと、炭火の香ばしい香りとタレの甘さが口いっぱいに広がった。
「おいしいね」
「うん、おいしい」
「茜、ここタレがついてる」
蒼が手を伸ばし、私の唇の端を指でなぞる。たったそれだけのことであるのに、まるで高校時代に戻ったように心臓が跳ねた。
「あのさ、茜」
「うん?」
食べ終わろうという頃、蒼が私の名前を呼ぶ。表情は暗い、というよりも申し訳なさそうだった。
「俺この間、茜の同期の二條君に嫌な態度取っただろ?そのせいで、気不味くなったりしてないかと思って」
「二條さん?別に気不味くなってないよ。そもそも、仕事以外で関わることもないし」
彼の口から二條さんの話題が出てきたことに少し驚く。そして、以前のやり取りを思い出した。
(蒼は二條さんに嫉妬してたんだよね)
私は花井さんに嫉妬して、蒼は二條さんに。けれど互いにそんな資格はないと、どろどろとした感情を必死に抑え込んでいた。
「正直に言うと、二條さんが嫌な思いをしたのかどうか、私には分からないの。それを気にするより、蒼がヤキモチ妬いてくれたことの方が嬉しいって…思っちゃって」
「茜は、気味悪くないの?俺あんなこと…」
「それはお互い様じゃないかな」
そうだ、私達は二人とも悪かったし、二人とも間違えたのだ。だったらそれを修復していくことも、二人でやならければならない。
少しずつでも、変わっていきたい。
「俺は、これからもずっと茜といたいと思ってる。でもまたいつ、あの女の遺した厄介ごとに巻き込まれるか分からないし、絶対に茜を巻き込みたくないんだ」
(…苦しそう)
私は立ち上がり、蒼を抱き締める。言葉で伝えることがあまり上手くないから、少しでもこの気持ちが流れ込んでいけばいいと思った。
結局何があっても、私はこの人のことが好きだ。
「もしそうなったら、ちゃんと言ってほしい。二人で一緒に考えよう、全部二人で」
「…茜」
彼は私の背中に両腕を回し、顔を埋める。蒼の心の奥に沈んでいる哀しいことを、私も分け合いたい。
「私達きっと、お互いのことが好きすぎるんだよ」
「…ははっ、そうかもな」
「でしょう?」
普段こんな風に上目遣いの彼を見る機会がないから、やけに可愛く思えた。
「ありがとう、茜」
「うん」
「好き」
「私も」
私達はとても自然に、唇を重ねる。
「焼鳥味だ」
「ふふっ」
目を見合わせて、互いに笑い合った。
「駅前の居酒屋が店の前で焼鳥焼いててさ。あの匂いには逆らえなかった」
「確かに、それは私も買っちゃうかも」
「だろ?ほら食べよう」
二人向かい合わせに座り、両手を合わせる。串を持ち豪快にぱくりとかぶりつくと、炭火の香ばしい香りとタレの甘さが口いっぱいに広がった。
「おいしいね」
「うん、おいしい」
「茜、ここタレがついてる」
蒼が手を伸ばし、私の唇の端を指でなぞる。たったそれだけのことであるのに、まるで高校時代に戻ったように心臓が跳ねた。
「あのさ、茜」
「うん?」
食べ終わろうという頃、蒼が私の名前を呼ぶ。表情は暗い、というよりも申し訳なさそうだった。
「俺この間、茜の同期の二條君に嫌な態度取っただろ?そのせいで、気不味くなったりしてないかと思って」
「二條さん?別に気不味くなってないよ。そもそも、仕事以外で関わることもないし」
彼の口から二條さんの話題が出てきたことに少し驚く。そして、以前のやり取りを思い出した。
(蒼は二條さんに嫉妬してたんだよね)
私は花井さんに嫉妬して、蒼は二條さんに。けれど互いにそんな資格はないと、どろどろとした感情を必死に抑え込んでいた。
「正直に言うと、二條さんが嫌な思いをしたのかどうか、私には分からないの。それを気にするより、蒼がヤキモチ妬いてくれたことの方が嬉しいって…思っちゃって」
「茜は、気味悪くないの?俺あんなこと…」
「それはお互い様じゃないかな」
そうだ、私達は二人とも悪かったし、二人とも間違えたのだ。だったらそれを修復していくことも、二人でやならければならない。
少しずつでも、変わっていきたい。
「俺は、これからもずっと茜といたいと思ってる。でもまたいつ、あの女の遺した厄介ごとに巻き込まれるか分からないし、絶対に茜を巻き込みたくないんだ」
(…苦しそう)
私は立ち上がり、蒼を抱き締める。言葉で伝えることがあまり上手くないから、少しでもこの気持ちが流れ込んでいけばいいと思った。
結局何があっても、私はこの人のことが好きだ。
「もしそうなったら、ちゃんと言ってほしい。二人で一緒に考えよう、全部二人で」
「…茜」
彼は私の背中に両腕を回し、顔を埋める。蒼の心の奥に沈んでいる哀しいことを、私も分け合いたい。
「私達きっと、お互いのことが好きすぎるんだよ」
「…ははっ、そうかもな」
「でしょう?」
普段こんな風に上目遣いの彼を見る機会がないから、やけに可愛く思えた。
「ありがとう、茜」
「うん」
「好き」
「私も」
私達はとても自然に、唇を重ねる。
「焼鳥味だ」
「ふふっ」
目を見合わせて、互いに笑い合った。