合意的不倫関係のススメ
蒼のことならば私は何でも分かっていると思っていた。それは今も思っているし、自惚れではないとも思う。

けれど、そうではない部分もあるのだと今更ながらに当たり前のことを学んだ。

彼は私が思うよりもずっと、繊細だ。

「蒼、私なら大丈夫だから」

その夜ベッドの上で、私は何度も彼に告げる。私達の間には、もう二ヶ月近くそういう行為がない。真実を知る前まではそれに絶望していたけれど、今なら理解できる。

手を出さないままあれだけ甘えていたのは、蒼も私に捨てられるのではと怯えていたからなのだと。

「茜…でも…」

間接照明の温かな光が、彼の横顔を照らしている。普段のきっちりとした風貌ではない無防備な姿。困惑したように瞳を揺らしている様が、とても愛おしかった。

「疲れているなら、もう寝よう。でももし遠慮してるだけなら、そんなの要らないから」
「茜…俺…」
「怖がらないで、私達は夫婦でしょう?」

あぐらを掻いた膝の上に握られている彼の拳を、私は指で優しくなぞる。ぴくりと反応し力の緩んだそれを、私は自身の胸元へ誘導した。

「心臓の音、速いの分かる?」
「…うん。凄く速い」
「緊張してるんだよ」

正気を保った状態でこんな風に自分から誘うことなど、きっと初めてだと思う。本当は羞恥心で頭がくらくらとするけれど、このまま曖昧にしてしまうのは嫌だった。

「好きだよ、蒼」
「…俺も、大好き」
「怖がらないで」

頬を緩めながら、じっと蒼を見つめる。強張っていた彼の手から力が抜け、嬉しそうに目を細めた。

「ん……っ」

ただ私の胸元に当てていただけの彼の手が、ゆっくりと動き始める。綺麗な指が胸の先端を掠めただけで、電流が流れたかのように身体が痺れた。

「茜、可愛い」
「恥ずかしいよ」
「もっと見たい…」

蒼の潤んだ瞳に、ゆらりと情欲の炎が灯る。触れるだけのキスが段々と深くなり、私も夢中で彼の舌に応えた。手付きも大胆になり、けれど優しく私を快感へと導く。

「茜、茜…っ」
「ぁ…んん…っ」
「ずっとこうしたかった…」
「ああっ」

普段とは違う、荒々しい息遣いが私の耳を犯す。パジャマを脱がす行為さえもどかしそうで、気が付けば私も自分から下着を脱いでいた。

「綺麗で、可愛くて、それにやらしい」
「やだ、言わないで」
「こんなに溢れてる」

蒼の指が私の花芯を弾くたびにいやらしい水音が響き、思わずぎゅうっと目を閉じる。すると彼は耳元に唇を寄せ、何度も何度も愛を囁いた。

(…頭がおかしくなりそう)

「あ、あ、ん、やぁ…っ」
「はぁ、ん…茜……っ」
「奥、だめ…っ」

彼の屹立したもので激しく身体を揺さぶられ、どろどろに溶けていく。蒼以外誰も知らない一番奥を突かれる度に、もっともっとと私の中は貪欲にうねった。

「好きだ、愛してる、好きなんだ…っ」
「私も、私も好き、すきぃ…っ」
「…も、い…っく……っ」

蒼の身体が小刻みに震え、私は必死にその背中にしがみついた。中で感じる温かさに、全身が満たされていく。

「茜、茜…っ」
「…ふふっ、可愛い」

肩を上下に揺らしながら甘えてくる姿に、思わず頭を撫でる。すると彼は顔を上げ、拗ねたように唇を尖らせた。

「なんか余裕だね、茜」
「別にそういう訳じゃあ」
「可愛いなんて、言えなくしてやる」
「ちょ…っ、あ…!」

再び腰を揺らしはじめた蒼に私はなすすべもなく、その夜は一晩中彼から与えられる甘い刺激に翻弄され続けたのだった。
< 97 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop