合意的不倫関係のススメ
なんだかくすぐったいと、その感触で私は目覚めた。一番に飛び込んでくるのは、蒼の綺麗な顔。

「おはよう、茜」
「何してるの?」
「うん?可愛いなって見てた」

彼の指が頬をなぞり、唇に触れる。まだ少し寝惚けた頭はふわふわとしていて、私は寒さに勝てず頭から布団に潜り込んだ。

「そろそろ起きる?」
「もうちょっとだけ…」
「リビングの暖房つけてくるよ」
「やだだめ、いかないで」

最近朝は一段と冷える。蒼にぎゅうっと抱き着いて、その胸に顔を埋めた。

「ごめんね、眠いの俺のせいだね」

耳元で甘く囁かれて、昨夜のことを思い出す。頭のてっぺんから足の先まで、どろどろに溶かされた。

「……起きる」
「もしかして恥ずかしくなっちゃったの?」
「ちっ、違うから」

少しずつ頭が覚醒してくると同時に、羞恥心がじわじわと身体に広がっていく。蒼は赤くなっているであろう顔を隠したくてぷいっとそっぽを向いた私の頬に手を添え、唇にキスをした。

「可愛い、茜」
「…っ、もう起きよう?ね?」
「嫌だって言ったのは茜だろ?」

(今思い出しちゃダメなのに!)

あろうことかこのタイミングで、昨晩絶頂に達する時の蒼の顔が脳裏に浮かぶ。艶っぽく眉根を寄せ、吐息と共に小さな声で甘く吐き出した彼の…

「もう無理…っ!」

勢いよく布団を剥ぎ、飛び起きるようにしてベッドから出る。そんな私を見て、蒼が愉しげに喉を鳴らした。

「おはよう、茜」
「…ばか」

側から見たら呆れられてしまいそうなこのやり取りに、私はぶすりと唇を尖らせたのだった。




「今日夕方過ぎから雨が降るみたいだから、傘持っていって」
「ありがとう、行ってきます」

無事支度を終え、蒼を送り出す。時間になり私も家を出ようと、玄関の扉を開けた。

「…寒いなぁ」

もう十一月も半ばを過ぎ、地獄の十二月までのカウントダウンが始まっている。何度経験しても、繁忙期というものは精神が削られる。

夜に雨が降れば、帰りはもっと冷えるだろう。今日の夜は何か体があったまるメニューにしようと、施錠をしながら考えた。

いつもの如く更衣室で着替えを済ませ、売場に入る。開店時間になり通常通り業務に取り組んでいると、社内携帯が震えた。

「食品二課和菓子売場、三笹です」
「三笹さん?外商の瀬良だけど、至急で“虎ノ屋”の商品包んでくれないかな」
「それは急ぎの注文ですか?」
「注文っていうか、手土産。ちょっと大変なことになってさ」

瀬良さんが次いだ言葉に、私は大きく目を見開いた。
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