もう一度、君を待っていた【完結】
エピローグ
数年後
私はT大に無事合格し、大学生として学校へ通っている。
今年で20歳になる。
毎年、春が終わると胸が苦しくなる。
夏が来るとどうしても朝陽君を思い出してしまうから。
この痛みが取れるのはもう少し時間がかかってしまうのだろう。
「ただいま」
一人暮らしをしているから、久しぶりに実家に帰省した。
お父さんもお母さんも変わりなく過ごしている。
「まさか本当にT大に受かるなんてねぇ、自慢の娘だわ」
「ギリギリだったけどね。でも就職は自分のしたいことを考えて決める。一流の企業じゃなくても、いいでしょ?」
冷蔵庫を開けて、何か飲み物を探しながらソファに座る母親にそう言った。
「勝手にしなさい。あなたの人生なんだから」
「そうする」
お母さんは未だに学歴や就職先に拘る考え方を持っているようだけど、“勝手にしなさい”そう返したお母さんはどこか嬉しそうに見えた。
「あ、そうだ。みずきは彼氏いるの?」
「な、なに言ってるの!いないよ」
突然の異性関係の話に牛乳を注いだコップを落としそうになった。
慌てふためく私の様子を見ながら、はぁと吐息を吐くお母さんと目が合う。
「そういう年齢じゃない。隣の家の息子さん、もう結婚するんですって。早いような気もするけど来年孫も産まれるって。びっくりよねぇ」
「へぇ、そうなんだ。でもどうせ、彼氏ができても品定めするんでしょう」
「しませんよ」
朝陽君と出会ってから、私は変わった。
あれからお母さんにも物怖じせずに自分の意見を言えるようになった。
クラスメイトにも目を見て挨拶をするようになって、返ってくることも増えたし、いじめも完全になくなっていた。
大学生になってからは友達が出来た。勉強も頑張っているしアルバイトも始めた。自宅近くのカフェでアルバイトをしている。カフェでは、様々なお客様が来る。
最初は声に張りがないと何度も怒られたし、ミスも多かった。クレーマーのようなお客様の対応もした。逆にいつも頑張っているね、と声を掛けてくれる常連のお客様もいた。
どれも私にとって、プラスになっている。
朝陽君に出会う前の自分ならば…接客業など絶対に選ばなかっただろう。
でも人と接することが苦手だった自分が少しでもそれを克服したくてあえてそれを選んだ。
思った以上にアルバイトは楽しい。それは日々変化している自身を実感しているからかもしれない。
「私、好きな人がいるから」
「え?そうなの。付き合ったら今度連れてきなさい」
「んー、それは無理かな」
「どうしてよ」
頬を緩ませて微笑んだ。
「それは、秘密」
小さく笑って私は遠くへ視線を移した。
これは私と彼だけが知る秘密、だ。
私と朝陽君だけが知っていたらそれでいい。それで、十分だから。
「人生は、選択肢の連続である」
「どうしたのよ、急に」
おせんべいを食べるお母さんは、呆れたように首を傾げる。
「私の好きな言葉なの。シェイクスピアの名言だよ。知ってた?」
そうなの、と興味なさそうに返事をするお母さんを見て目を細めた。
朝陽君のくれたすべてを大切にして生きるよ。
“そういう”選択をする。
もう少しで夏が来る。お母さんが暑くなるわねぇ、と漏らすのを聞きながら瞼を下ろす。
彼との時間は決して忘れない、彼が命を懸けてくれた時間を忘れない。
やっぱりまだあなたのことを思い出すと胸が苦しくて切なくて、泣きたくなります。
やっぱりまだ、夏が来るのを素直に喜べないのです。
それでも私は、前を向いて生きていく。
夢を見た。
『友達になろう』
そう声を掛けてくれる人が現れて、私に手を差し伸べる。
ぼやけて顔の細部は見えないがその人は笑っているようで私が頷くとその人も嬉しそうだった。差し出された手に自分のそれを重ねるとそれを強く握り返された。
大丈夫、そう聞こえた気がした。
私はT大に無事合格し、大学生として学校へ通っている。
今年で20歳になる。
毎年、春が終わると胸が苦しくなる。
夏が来るとどうしても朝陽君を思い出してしまうから。
この痛みが取れるのはもう少し時間がかかってしまうのだろう。
「ただいま」
一人暮らしをしているから、久しぶりに実家に帰省した。
お父さんもお母さんも変わりなく過ごしている。
「まさか本当にT大に受かるなんてねぇ、自慢の娘だわ」
「ギリギリだったけどね。でも就職は自分のしたいことを考えて決める。一流の企業じゃなくても、いいでしょ?」
冷蔵庫を開けて、何か飲み物を探しながらソファに座る母親にそう言った。
「勝手にしなさい。あなたの人生なんだから」
「そうする」
お母さんは未だに学歴や就職先に拘る考え方を持っているようだけど、“勝手にしなさい”そう返したお母さんはどこか嬉しそうに見えた。
「あ、そうだ。みずきは彼氏いるの?」
「な、なに言ってるの!いないよ」
突然の異性関係の話に牛乳を注いだコップを落としそうになった。
慌てふためく私の様子を見ながら、はぁと吐息を吐くお母さんと目が合う。
「そういう年齢じゃない。隣の家の息子さん、もう結婚するんですって。早いような気もするけど来年孫も産まれるって。びっくりよねぇ」
「へぇ、そうなんだ。でもどうせ、彼氏ができても品定めするんでしょう」
「しませんよ」
朝陽君と出会ってから、私は変わった。
あれからお母さんにも物怖じせずに自分の意見を言えるようになった。
クラスメイトにも目を見て挨拶をするようになって、返ってくることも増えたし、いじめも完全になくなっていた。
大学生になってからは友達が出来た。勉強も頑張っているしアルバイトも始めた。自宅近くのカフェでアルバイトをしている。カフェでは、様々なお客様が来る。
最初は声に張りがないと何度も怒られたし、ミスも多かった。クレーマーのようなお客様の対応もした。逆にいつも頑張っているね、と声を掛けてくれる常連のお客様もいた。
どれも私にとって、プラスになっている。
朝陽君に出会う前の自分ならば…接客業など絶対に選ばなかっただろう。
でも人と接することが苦手だった自分が少しでもそれを克服したくてあえてそれを選んだ。
思った以上にアルバイトは楽しい。それは日々変化している自身を実感しているからかもしれない。
「私、好きな人がいるから」
「え?そうなの。付き合ったら今度連れてきなさい」
「んー、それは無理かな」
「どうしてよ」
頬を緩ませて微笑んだ。
「それは、秘密」
小さく笑って私は遠くへ視線を移した。
これは私と彼だけが知る秘密、だ。
私と朝陽君だけが知っていたらそれでいい。それで、十分だから。
「人生は、選択肢の連続である」
「どうしたのよ、急に」
おせんべいを食べるお母さんは、呆れたように首を傾げる。
「私の好きな言葉なの。シェイクスピアの名言だよ。知ってた?」
そうなの、と興味なさそうに返事をするお母さんを見て目を細めた。
朝陽君のくれたすべてを大切にして生きるよ。
“そういう”選択をする。
もう少しで夏が来る。お母さんが暑くなるわねぇ、と漏らすのを聞きながら瞼を下ろす。
彼との時間は決して忘れない、彼が命を懸けてくれた時間を忘れない。
やっぱりまだあなたのことを思い出すと胸が苦しくて切なくて、泣きたくなります。
やっぱりまだ、夏が来るのを素直に喜べないのです。
それでも私は、前を向いて生きていく。
夢を見た。
『友達になろう』
そう声を掛けてくれる人が現れて、私に手を差し伸べる。
ぼやけて顔の細部は見えないがその人は笑っているようで私が頷くとその人も嬉しそうだった。差し出された手に自分のそれを重ねるとそれを強く握り返された。
大丈夫、そう聞こえた気がした。