戻り駅
「さすがに無理だよ。だけど誠がいろいろと調べてくれて、援助を受けられることになったんだ。それを使えばどうにか生活はしていけそうだ」


 良治の表情は明るく、そして声も前を向いているように感じられた。


 なにより誠は良治のために一緒にアルバイトをすることになったのだ。誠の目があれば良治も不真面目になることはできない。


そこに安心感があった。


 誠は決して途中で良治のことを投げ出したりはしない。良治にもその安心感は伝わっていると思う。


「ほい、コーヒー。琴音にはオレンジな」


 公園の前に設置されている自販機で誠が飲み物を買って来てくれた。


「ありがとう」


「サンキュ」


 誠は良治の隣に座り、甘い缶コーヒーのプルタブを開けた。


「俺、そろそろバイトに戻らなきゃ」


コーヒーを飲み干した良治が立ち上がる。


「俺もこれからバイト」


 誠も同じように立ち上がった。


「そっか。二人とも頑張ってね」


「おう。琴音、気をつけて帰れよ?」


 そういう誠の表情はひどく真剣で、あの出来事は夢じゃなかったのだと思い知らされて少しだけ胸が痛んだ。
< 107 / 116 >

この作品をシェア

pagetop