戻り駅
☆☆☆

「次の問題を小泉」


 最初、考え事をしていて自分の名前が呼ばれたことに気がつかなかった。


「おい、小泉!」


「あ、はい」


 視線をあげると五時間目の国語は終わり、いつの間にか六時間目の数学が始まっている。


 先生は私が話を聞いていなかったと思っているようで眉間にシワを寄せて険しい表情を作っている。


「次の問題を前に出てやってみろ」


 差し棒で黒板を指して言われ、私は席を立った。


 授業内容は聞いていなかったけれどこれを答えるのは二度目だ。


 一度目は難しくて途中までしか答えることができなかったが、今回は余裕だった。


 黒板に式と解答を手早く書くとクラスから、おぉというざわめきが起こった。先生も驚いて私を見ているけれどそんなこと気にしている余裕はなかった。


 タイムリミットまであと少ししかないのに、なにもいい案は浮かんできていない。


 二人を同時に助けられる方法なんてあるんだろうか。


「もう席に戻って良いぞ」


「はい」


 先生に言われて席に戻ると、私はまた考え事に没頭したのだった。


「琴音、一緒に帰ろう」


 この言葉を聞くのは三回目だった。


 私はゆるゆると顔を上げる。ついにこの時間が来てしまった。


 それなのに妙案は思いついていない。
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