戻り駅
「も、戻り駅?」


 なにも聞いていなかった私は聞き返す。その質問に答えてくれたのは誠だった。


「幻の駅だってさ。その駅にたどり着いて電車に乗ることができたら、過去に戻ることができるらしい」


「幻の、駅?」


 私はキョトンとして誠を見上げた。


「ただの都市伝説だよ。花子さんとか、動く人体模型みたいなもんだ」


「それは学校の七不思議でしょ。それとは全然違うんだから」


 美紗は不服そうに唇を尖らせている。


「その戻り駅ってどこにあるの?」


「どこかはわかんない。でもね、時間を戻すことが必要な人の前に現れてくれるんだって」


「そんなの、みんな必要としてるじゃん。テストの点が悪かったとか、昨日のご飯をもう一度食べたいとか」


 私の言葉に美紗はあからさまに眉間にシワを寄せた。


「そんなことで戻り駅が現れるわけないでしょ! もっと、その人の人生を左右するときに現れてくれるんだよ!」


「そ、そうなんだ」


 美紗はさっきから熱弁しているけれど、私にはまだピンと来ていない。それはきっと、本気で過去に戻りたいと考えていないからだろう。


 私なんてせいぜい、誠との出会いをもう一度体験したいと願うくらいだから。


 話題はやがて切り替わり、私の頭の中から戻り駅のことはすっかり忘れ去られてしまったのだった。
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