戻り駅
☆☆☆

 一日の授業を終えて自分の机で大きく伸びをしていると誠が近づいてきた。


「琴音、一緒に帰ろう」


「うん」


 答えてすぐに席を立つ。


 ずっと同じ姿勢で座っていたから、お尻はすっかり痛くなっている。


 小学校の頃までは座布団を持参していいことになっていたのに、どうして高校生になると座布団を持参する生徒がいなくなってしまったんだろう。


 自分のお尻をさすりながら立ち上がり、誠と肩を並べて教室を出た。


 廊下を歩いていると少し前を美紗が歩いているのが見えて声をかけようとしたが、誠が私の手を掴んで引き止めた。


「どうしたの?」


 見上げて質問すると誠は私の手を握り締めて微笑んできた。それだけで、二人でいたいからという気持ちが伝わってきて胸が温かくなった。


 私は小さく頷き、誠と手をつないで歩き出す。


 昇降口まで来て外を確認してみると、今日はよく晴れていた。


 もし今日が雨だったら、誠はまだ私と相合傘をしてくれるだろうか。 


 そんなことを考えながら校門を出たときだった。ふと思い出すことがあって鞄の中を確認した。


 目の前の大通りは信号が青で、色とりどりの車が行きかっている。


「あ、私プリントを忘れてきちゃった!」


 顔をしかめて誠に伝える。


「宿題の?」


「うん。数学のプリント。宿題忘れると煩いんだよね、数学の先生って」


顔をしかめる私に「じゃあ、一緒に取りに戻ろう」と、誠は言ってくれる。


 だけどさすがにそこまで手間はかけられない。


 私は大丈夫だからと誠に伝えて、ひとりで教室へ戻ったのだった。
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