戻り駅
 心臓が早鐘を打ち、背中に嫌な汗が流れていく中、私は電信柱の影から一歩踏み出していた。


 どうせずっとここで隠れているわけにはいかないのだ。相手の男が来る前に良治と話をしたほうがいいかもしれない。


 そう思っても、隠れている場所から姿を現すのは勇気が行った。


「お前……」


 良治は私の姿に驚き、立ち止まった。


「なんだよ、なんでこんなところにいるんだよ」


 良治はいぶかしげな表情になって聞いてくる。私はゴクリと唾を飲み込んで、震えている両足を踏ん張った。


「わ、私、これからなにが起こるか知っているの」


 その声は恐怖で随分と頼りないものになってしまった。震えていたし、声量も小さい。


 けれど良治にはしっかりと届いていた。


良治の表情は一瞬にして険しくなり、少しだけ青ざめたのだ。


「な、なんのことだよ」


 明らかの動揺を見せて、私から視線をそらせている。


「ねぇ、バカなことはやめようよ。誠がなにかしてしまったのなら、私からも謝るから」


 誠の名前が出た瞬間、また良治の表情が変わった。


 さっきまで私の言葉を半信半疑で聞いていたけれど、誠の名前が出たことで確信に代わったようだ。


「なんでその計画を知ってんだよ!」


 その計画とは、これから引き起こす交通事故のことだろう。


 混乱している良治は声量を落とすことなく怒鳴った。
< 50 / 116 >

この作品をシェア

pagetop