戻り駅
 私は唇を引き結び、左右に首を振った。実際に誰かから聞いたわけじゃない。自分で過去に戻り、調べて考えてきたことだったから。


「おいお前、嘘つくなよ。俺は女だからって容赦はしねぇ」


 近づいてきた男はタバコの臭いがして、思わず顔をしかめた。苦い嫌な香りが喉の奥に入り込んでくる。


「なぁ、こいつどうする? このままほっとくわけにはいかないよな」


 良治の言葉に男は振り返った。


 男の威圧的な視線から逃れることができて少しだけ心が軽くなる。


「あぁ大問題だな。だけど約束を無視したお前の始末が先だ。裏切り者とずっと仲間でいることはできねぇ」


「ちょっと待ってくれよ。俺は計画について誰にも話してない! 本当だ、信じてくれ!」


 良治が男にすがりつく。しかし男はそんな良治を振り払うと車の運転席へと戻ってしまった。


「お願いだよ話を聞いてくれ!」


 良治は真っ青な顔で懇願するが、男は聞く耳を持たずにエンジンをかけた。黒い排気ガスが空き地に広がり、私は腕で自分の鼻を覆った。


 ここで仲たがいして今回の計画が流れてくれればいい。そうすれば後は良治から何があったのか聞いて、問題を解決させればいいのだ。


 そう、思ったけれど……。
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