戻り駅
　白い車は空き地の中で突然急発進をしたのだ。


　私は驚き、細い路地へと飛びのいた。


　けれど男にすがりついていた良治は逃げるのが後れた。


　男は明らかに良治を狙って車を発信させ、逃げ遅れた良治は悲鳴を上げる暇もなくブロック塀と車の間に体を挟まれていた。


　悲鳴が喉の奥に張り付き、なにも出てこなかった。


　男は一度車をバックさせると再び良治の体を撥ねた。それを何度も繰り返す。ブロック塀と車の間に何度も挟まれる良治は目を見開き、血を吐きながら運転席を見つめている。


　車がバックしたとき、ついに良治の体は崩れ落ちた。腹部はペタンコに潰れ、足元にはちだまりができている。



　それなのに車はまた良治の体に乗り上げたのだ。


「やめて……やめてよ！！」


　ようやく声を上げることができた。それでも運転手には届かない。


　窓の奥に見える運転手の顔は笑っていて、人をひき殺すことを楽しんでいるのがわかった。


　その異様な光景に後ずさりをし、震える手でどうにかポケットからスマホを取り出した。救急車を呼ばなければ、あと警察も。


　だけど手が震えてなかなか番号をタップすることができない。ガタガタと震えてる手からスマホが滑り落ちたとき、運転席から男が降りてきた。その目は真っ直ぐ私を見つめている。


　男の口角は上がり、これから楽しい狩をする獲物を見つけた肉食獣のようにジリジリと距離をつめてくる。
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