戻り駅
 振り向けばそこに浅黒い顔の男がいる。


 口角をあげてニタリと笑う肉食獣が……。


「これ、落としましたよ」


 女性の声が聞こえてきてそんな妄想は掻き消えた。


 勢いで振り向くとOL風の女性が白いハンカチをこちらへ差し出して立っている。


「あ、ありがとうございます」


 私はカラカラに乾いた喉で機械的に返事をして、ハンカチを受け取った。


 OL風の女性は軽く笑顔を浮かべると、忙しそうに喧騒の中へと戻っていったのだった。
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