戻り駅
☆☆☆

 あの男、私の名前を知っていた。


 汽車に揺られながら膝の上でギュッと拳を握り締めた。


 でも私はあの男を知らない。


 良治があの男に私のことを伝えていたとしても、その理由がわからなかった。


「なにが目的なの?」


 呟く声は車内に消えていく。


 良治とあの男は間違いなく仲間だった。


だけど簡単に殺してしまった。


 どうして?


 仲間と言ってもそれほど信用できる仲間じゃなかったんだろうか。男は良治の言い訳も全く聞いていない様子だったし。


 きっと、私が考えている学校内や家族内での仲間とは随分と系統が違うのだろう。


 もっと前に遡らなきゃ。


 数時間じゃダメ。


 もっと、もっと何日も前に……。


 私は車窓に流れる麦畑を睨みつけて、そう考えたのだった。
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