戻り駅
 白い車は逃げる誠を追いかけるようにして後ろから激突してきたのだ。


 誠の体が大きく反った。そのまま吹き飛ばされて顔面から地面に倒れこみ、更に誠の体の上を車が乗り越えていく。


 白い車はそのままケムリを吐きながら逃走し、遅れて周囲から悲鳴が上がった。


 美紗が大きく目を見開き、その場で硬直してしまっている。


 時間がスローモーションで流れていくようだった。


 誠にかけよる通行人の大人たち。


 悲鳴を上げる女子生徒たち。


 慌てて職員室へ向かう男子生徒の姿。


 そのどれもが、映画のワンシーンを見ているように他人事だった。


 やがて先生がかけつけて、救急車が到着したとき私はようやくその場から動くことができた。


 だけどそのときにはすでに誠の体はすでに救急車に乗せられていた。


 残ったのはコンクリートの血溜りと、周囲の喧騒だけ。


「見たか? 脳みそ出てたぞ」


「見た見た! 跳ね飛ばされた後、車が体を乗り上げて行ったもんな。あれは助からないよ」


 周りから聞こえてくる声に反応することもできなかった。


 脳みそが出てた?


 それじゃ、血溜りの中にあるあのドロッとしたものがそうなんだろうか?


 脳みそが出てしまったら、どうなるんだろう?


 誠は、誠は……。


「琴音!」


 その声にハッとして顔を上げるといつの間にか美紗が目の前に立っていた。どうやらずっと声をかけてくれていたようだ。


「大丈夫?」
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