戻り駅
☆☆☆

 この日も見ている限りでは良治と誠の関係に変化があったようには感じられなかった。


 一体いつどこで、なにが起こったというのだろう。わからなくて、疲れが蓄積していたこともあり私は自分の席に突っ伏した。


 目を閉じればこのまま眠ってしまいそうだ。


「琴音、随分疲れてるみたいだけど大丈夫?」


「美紗……」


 私は声をかけてくれた美紗の手を握り締めた。


 こうして手をつなぐのが久しぶりな気がする。


「なにかあった? 悩みなら聞くよ?」


 その言葉に顔を上げたけれど、結局なにも言わずにまた突っ伏してしまった。


 戻り駅のことを教えてくれたのは美紗だけど、言えるわけがない、美紗だってただの噂として教えてくれただけだし。


 突っ伏した腕の隙間から良治と誠の姿を見てみると、誠は今席を外していた。


 トイレにでも行ったのだろう。


 良治は一人でスマホをいじっている。が、時折周囲を気にするように視線を泳がせていて、誰も近くにいないことを確認してまたスマホに目を落としているように見えた。


 どうしたんだろう?


 不振な動きに私は顔を上げて良治を見た。


 良治はそれからも休憩時間のたびに一人でスマホを確認している。しかし、周りに誰かがいるときには絶対にスマホを確認しない。


絶対に見られてはいけないなにかを隠しているように。
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