戻り駅
☆☆☆

「誠くん、鞄ないじゃん」


 クラスメートの誰かがそう呟いたのは昼休憩も終わる時間帯だった。私はその言葉に反応して視線を向けた。確かに誠の鞄がなくなっている。


「あれ、どうしたんだろうね? 琴音なにか聞いてる?」


 美紗に聞かれて私は左右に首を振った。


 もしかしたらメッセージが入っているかもしれないと思ってスマホを確認してみたが、メッセージも来ていない。


 なにかあれば絶対に一声かけてくれるのに……。


 途端に嫌な予感が胸をよぎった。


 ただの早退だろうか?


 いや、それなら私に声をかけるはずだ。


 そうじゃないとしたら、まさか!


 サッと青ざめて勢い良く立ち上がっていた。美紗が驚いた視線をこちらへ向けてくる。


「ごめん。私も早退するから!」


 私は鞄をつかんで慌てて教室から飛び出したのだった。
< 80 / 116 >

この作品をシェア

pagetop