戻り駅
 良治は自分部屋なのに居心地が悪そうに何度も居住まいを正した。


 そんな良治を見ているとこっちは逆に落ち着いた気分になってきていた。


「彼女がいるなんて嘘だろ」


 単刀直入に聞くと、良治が俺から視線を外した。そして困ったときの癖で頭をかく。


 どうやら図星だったようだ。


「誰とメッセージしてたんだ?」


「別に誰だっていいだろ」


「気になるじゃないか。あれだけ警戒しながら、学校内でメッセージしてるんだからさ」


 誰にも見られたくないのなら、家で返事をすればいい。だけどそれができない相手なのだということは安易に想像がついた。それは良治にとって脅威に当たる人物かもしれないということも。


 もし恐ろしい相手で良治が抵抗できないような状態にあるなら、助け出してやりたいと考えていた。


 しかし、良治はなにも言わなかった。


ただ俺から逃げ出すように「トイレ」と短く言って、部屋から逃げ出したのだった。


 俺は良治が出て行ったドアをジッと見つめた。


 明らかに何かを隠している。それはきっと思っているよりも大きな秘密で、誰にも言えないでいるはずだ。


「俺にも言えないことか……」
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