戻り駅
 その背中にはどんどん汗が流れていっていたが、それは暑さのせいだけじゃない。


「わかった。どうやってその子を連れ出す?」


「今度遊びに誘う。その時に俺がひと気のない場所まで誘導するよ」


「そうか。そこで待っていればいいんだな?」


「あぁ」


 信じられないことに良治の声はもう戸惑ってはいなかった。


 琴音を男に引き渡すことを完全に決めてしまっている口ぶりなのだ。


 もう、これ以上は聞いていられなかった。


 こいつら二人がこんな場所でこんな重要な会話をしていた理由はわからない。


 もしかしたら、これからまだ仲間が集まってくる約束をしているのかもしれない。


 だけど、もうそんなことに気にならなくなっていた。


 琴音だけは守らないといけない。


 絶対に。


 俺は空き家の庭から飛び出して、隣の空き地へと駆け込んだ。
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