魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
ちょっと黙ろうか
徹夜仕事をやり遂げた朝六時。
私が一晩を共にした巨大な鉄の塊が、トーイングカーに押されておもむろに動き出した。


「オーライ、オーライ……」


トーイングカーには、先輩の佐伯(さえき)(みつる)さんが乗っている。
年齢は五つしか違わないけど、大先輩だ。
私の誘導なんかなくても、トーイングカーを巧みに操作して、この大きな塊をまったくぶれることなくプッシュバックしていく。


竜の口みたいにぽっかり開いた扉に向かってゆっくり後ろ向きで進むのは、国内最大手の航空会社、日本エア航空所有のB787-10という旅客機だ。
長距離用中型ワイドボディ機で、国内の長距離路線や国際線で多く使われる。
横に付き添って歩く私の頭上、機体後部には、『JA338K』という機体番号が振られている。
この338Kはこれからニューヨークのジョン・F・ケネディ空港に向けて、長い長い空の旅に出かけることになっている。


一日に何往復もする国内線は、着陸する度、各地の空港でメンテナンスできるけど、国際線――特に欧米線はそうはいかない。
一旦空に飛び出したら、地上に戻ってくるのは十時間以上後だ。
そのため、整備もより慎重になる。


338Kは、昨日の朝ニューヨークから帰ってきたばかりで、私は一晩中整備に追われた。
そうして元気を取り戻した機体の尾翼部分が、格納庫の外に突き出した。
私も並んで外に出る。
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