魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
私はハッと顔を上げて、思わず目を見開いた。


「今野さん……?」

「偶然。でもよかった。椎名さんが神凪君と一緒で」


今野さんは私と目を合わせると、CAらしいよそいきの笑顔に茶目っ気を滲ませる。


「俺、アイスコーヒー。コンディメントはいらない」


神凪さんが先に答えた。
今野さんが、頬をひくっと引き攣らせる。


「あんたね。便乗でしょうが」

「日本エア航空のCAは乱暴だな。こっちは一応乗客でもあるのに、あんた呼ばわりとか」


嫌に尊大な物言いをする彼にムッと唇を結びながらも、アイスコーヒーのピッチャーを持ち上げた。


「椎名さんはどうしますか?」


彼に紙コップを手渡し、私に視線を向けてくる。


「あ、私も同じので……」


私には、ミルクとガムシロップも一緒に渡してくれた。


「羽田まであと一時間ほど、空の旅をお楽しみください」


最後はニコッと笑って、ドリンクカートを押して後方へと進んでいった。
『偶然』……?
私は両手で紙コップを持って、そっと彼を窺った。
神凪さんは黙ってアイスコーヒーを飲み干すと、シートに深く背を預け、視線だけ後方に走らせる。
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