魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
私は、ゆっくり目蓋を閉じた。
子供の頃、飛行機に乗る度に、胸を躍らせていた自分を脳裏に描く。


はしゃぐ私に反して、母は飛行機が苦手だった。
顔を強張らせてガチガチに固まる母をよそに、私がウキウキワクワクしていられたのは、飛行機がコンディション抜群で上機嫌だから。
乗客に快適な空の旅を提供できるのは、航空整備士だ。
私はずっとそう思ってきたし、航空整備士になった今でも、その気持ちは変わらない。


だけど――。
言うまでもなく、飛行機を空に飛ばすのはパイロットだ。
彼らの手に委ね離陸したら、私たちはなにもしてあげられない。
巡航中は、パイロットに任せるしかない。
だから離陸を見送る時、私はほんのちょっと歯痒い気持ちになる。


大事に整備した飛行機を、気持ちよく飛ばせてほしい――。
整備士の誇りを胸にかけた言葉に、神凪さんが返してくれた『任せとけ』は、力強く頼もしかった。


――最低だって思ってた。最初からずっと。
見直せる部分はないし、私にこだわる理由にしたって、勝手な言い分で受け入れ難い。
それでも、私は聞きたいと思っている。
今朝、彼のショーアップの時間が迫って、途中で終わりにされた話の続きを。
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