魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
地上じゃなく、空の上の方が――。


「なんで嘘つくんですか」


私は肩を縮めて目力を込め、精一杯の警戒心を漲らせた。


「え?」

「航空整備士だなんて」


虚を衝かれた様子で聞き返され、ややつっけんどんに被せる。
ハッとしたように息をのむ彼を、キッと睨めつけた。


「操縦桿握るどころか、飛行機飛ばせるパイロットじゃ……」

「ちょっと黙ろうか」

「んっ、ぐっ……!?」


腰を上げた彼にいきなり大きな手で口を塞がれ、私はギョッと目を剝いた。
抗議のつもりで睨み上げた私を、彼は涼しい顔で見下ろしてくる。
そして。


「出よう」

「っ、え?」


私の口元から手を引っ込めたかと思うと、わざわざ私の方に回り込んできて、今度は腕を掴み上げた。


「ちょっ……!」

「しっ。静かに」


強い力で引っ張られ、意に反して腰を浮かせた私に顔を寄せ、人差し指を立てて制す。
私が条件反射で声をのむと、「そう」と満足げに微笑んだ。
風見さんを囲んで、先ほどまでと同じようにキャピキャピ盛り上がる女性たちと、熱心に会話を続ける男性たちを一瞥して、


「あ、ちょっと……」


私の抵抗をものともせず、ほとんど引き摺るようにして、テーブルから離れていったのだった。
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