魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
神凪さんがパリに発ってから四日。
私は早番勤務に就いた。
機体が並ぶ駐機スポットには、すっきりしないグレーの空が広がっている。


私はツールをボックスに戻し、機体の隣に立って頭上を仰いだ。
空は一面濃い雲に覆われていて、やはり太陽は見つからない。
昨日から東京の天気は下り坂で、今夜半から雨が降る予報だ。
神凪さんが帰国する明日夕刻は、雨風が強まる見込みとなっている。


「…………」


私はきゅっと唇を噛んで、どんより重い空を恨めしい気持ちで睨んだ。


「椎名ー。スポイラーの点検済んだか?」


ノーズのレーダーチェックをしていた佐伯さんが、翼の向こうからひょいと顔を出した。


「あ、はい。完了しました。リチェックお願いします」


私の返事に「ん」と頷き、私がなにを気にしていたか探すように空を見上げながら、こちらに歩いてくる。
一度ヘルメットを外し、髪を撫でつけてから被り直すと。


「やっと神凪が帰ってくるのに、明日は天気悪いなあ……って?」

「! ち、違います。そんなこと」


ニヤリと笑って訊ねられ、私は弾かれたように首を横に振った。


「大丈夫だよ。神凪、技術のあるパイロットだから」

「だ、だから、私は別に神凪さんの心配なんて」


慌てて否定してもなお、「へえ?」とニヤニヤされて、ぷいと顔を背ける。
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