魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
「佐伯さん……ほんと、もうからかうのやめてください……」


顔を真っ赤にして、声を消え入らせて身を縮める。
佐伯さんは、「ごめんごめん」と繰り返し――。


「椎名があの難儀な神凪って男の理解者になってくれて、嬉しくて」


言葉通り、本当に嬉しそうに目を細めて笑う。
素朴で屈託のない笑顔に、私もつられて眉をハの字に下げた。


「で、俺の可愛い後輩を射止めたのが神凪ってのも、また誇らしい」


ニッと口角を上げて声を弾ませて言われ、気恥ずかしくなって目を泳がせる。


「もう……」

「お前も明日、遅番だろ? 神凪たちのランディング、しっかり見届けて出迎えてやろう。少しでも機体傷めたら、容赦しないぞ」


散々からかっておいて、最後は頼れる整備士の顔をする彼に、私も強く頷いて同意してみせた。


「はい」

「よし。じゃ、あの飛行機、完了させよう。それで、この後上がりまで、事務所で代替機手配」

「代替機? なんの……」


軽く親指を立てて、飛行機の方へ引き返していく背中に、思わず聞き返す。
佐伯さんが、ゆっくりと肩越しに振り返り――。


「明日。一発で着陸できたら大拍手だ。多分、どこの便もディレイ、ゴーアラウンドのオンパレード。最悪ダイバートになったら、機体が足りなくなる」


サッと引き締まった横顔に、私はひゅっと喉を鳴らして息をのんだ。
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