魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
***


パリからの帰国便のブリーフィングで、クルーたちにも到着地・羽田空港周辺の天候は雨と伝えられた。


「大陸から張り出した低気圧の影響で、シベリア上空も気流の悪いところがあり、巡行中揺れが予想されます。早めにベルトサインを出しますが、機内サービスの際も予期せぬ揺れに注意してください」

「はい」


パリ発羽田行き10便のキャプテン、久遠さんからの指示に、キャビンにズラッと居並んだCAたちが表情を引き締めて返事をした。
ブリーフィングが散会して、それぞれ配置に就く。


俺は副操縦士席に着き、久遠さんとコックピットチェックリストの読み上げ確認を行った。
システム、計器、ライト類共に異常なし。
日本を飛び立つ前、芽唯のチームが整備してくれたJA831Kは、今日も元気だ。


「よし。コックピットブリーフィング、始めるか」


久遠さんが俺にそう言ってから、後部のオブザーバーシートに着席した水無瀬を振り返った。
水無瀬はリリーフパイロットとして、今便に乗務している。


リリーフパイロットとは、飛行時間の長い欧米線に乗務する第三のパイロットだ。
機長や副操縦士が休憩中などに操縦桿を握る、交替要員。
今便ではベテラン機長がシフトされていたが、羽田離陸前に体調不良で欠勤となり、スタンバイだった水無瀬が就いた。
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