魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
「滑走路前で待機指示がなければ、ローリングテイクオフを行う。神凪、俺がPFを務めるから、他機との間隔に注意してくれ」

「はい」


誘導路から離陸出力を設定して、滑走路進入後はブレーキを踏まずに離陸する方法だ。
一旦滑走路で停止して一気に出力を上げるスタンディングテイクオフより離陸にかかる時間を短縮できるため、滑走路渋滞を避ける目的でこの方法が取られる。
誘導路が長く、十分な走行ができるのが前提だが、ここは問題ない。


「本日はコーパイ二人のため、俺は安定した巡航を見込める北欧上空で、先に食事と休憩をとらせてもらう。気象レーダーで異変が見られた際は、即急に報告を」

「はい」


久遠さんがフライトプランと照らし合わせ、俺と水無瀬に大体の休憩入り時間を告げた。


「キャプテン、本日のミール、ビーフかチキンだそうですが」


食事の話題に合わせて俺が口を挟むと、彼は真顔で「うーん」と顎を摩った。
フライト前から機内食のチョイスをするのも、国際線ならではのこと。
食中毒予防の観点から、機長と副操縦士は時間をずらして別々のものを口にするのが決まりだ。


「神凪、お前希望あるか?」

「俺は別に」

「じゃあ俺はチキン、神凪はビーフで。水無瀬は好きにしろ」


俺の返事を受け、久遠さんは水無瀬にそう告げた。


「はい。では先にチキンを準備するよう、チーフパーサーに伝えてきます」
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